重症牛乳アレルギーの子ども、経口免疫療法に乳酸菌「LP0132」飲料併用のRCT
国立成育医療研究センターは3月22日、重症牛乳アレルギーの子どもに対する牛乳経口免疫療法に加えて加熱死菌乳酸菌(LP0132)発酵果汁飲料を24週間摂取することで、経口免疫療法の効果が変化するのか、ランダム化比較試験で探索的に検討した結果を発表した。この研究は、同センターアレルギーセンター行動機能評価支援室(総合アレルギー科併任)の山本貴和子室長、同・大矢幸弘センター長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Beneficial Microbes」に掲載されている。
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食物経口免疫療法は、自然経過では食べられるようになる(耐性獲得)可能性が低い食物アレルギーの人に対し、アレルギー反応を起こさない程度に少量の原因食物を継続的に食べてもらい、脱感作状態・耐性獲得を目指す治療法。牛乳アレルギーに対する経口免疫療法は、卵や小麦と比べて治療効果が低いことが知られている。
近年、食物経口免疫療法の効果や安全性を増やすことを目的として、経口免疫療法にプロバイオティクスを併用する試みがなされている。Lactiplantibacillus plantarum YIT 0132(以下LP0132)は、これまでの臨床研究で、生菌ではなく加熱死菌の形態でも花粉症や通年性アレルギー性鼻炎に対し症状を改善させる効果があることが確認されている乳酸菌。しかし、食物アレルギーに対する有効性を調査した研究はなかった。
そこで研究グループは今回、重症の牛乳アレルギーの子どもの牛乳経口免疫療法を行う際にLP0132発酵果汁飲料(みかん果汁をLP0132で発酵させた飲料)を24週間摂取することで、経口免疫療法の効果・安全性が改善するかを調べるため、パイロット研究としてランダム化比較試験で探索的に検討した。
免疫療法に追加でLP0132発酵果汁飲料を毎日飲み、24週後に評価
研究では、牛乳経口負荷試験(最大 計14.25ml)で陽性と判定され牛乳アレルギーと診断された1~18歳の子ども61人を登録。プラセボ群に30人、LP0132群に31人割付けた。
研究期間中は両群とも牛乳の少量緩徐経口免疫療法(維持量0.1mlまたは1ml)を続け、それと並行してLP0132を含まない果汁飲料(プラセボ群)またはLP0132発酵果汁飲料(LP0132群)を24週間飲み、24週後に牛乳経口負荷試験を行った。また、登録時と24週後に血液検査・腸内細菌叢を評価した。
牛乳アレルギーの閾値改善は認められなかったが、腸内環境変化でアレルギー体質改善の可能性
その結果、登録時と比べ、24週後に牛乳経口負荷試験の負荷量が増加した(閾値が改善した)参加者の割合はプラセボ群37.9%、LP0132群41.4%で、両群に違いは認められなかった。試験飲料の摂取や牛乳経口免疫療法は、両群とも決められた通りに継続できた。安全性の評価では、有害事象のほとんどは牛乳経口免疫療法に伴う口腔刺激症状(口やのどのイガイガなど)や皮膚症状など、軽度のものだった。重篤な有害事象2例は同研究と関連のない牛乳誤食によるアナフィラキシーだった。
牛乳関連の血中特異的IgE抗体価は、24週後に両群で違いはみられなかった。βラクトグロブリン特異的IgG4抗体価(高いほうが耐性獲得しやすい)は、24週後にプラセボ群では低下したが、LP0132群では低下しなかった。血中のサイトカイン・ケモカインについて、アレルギーと関連するインターロイキン5、インターロイキン9は24週後にプラセボ群で変化なく、LP0132群で低下した。
腸内細菌叢の多様性はLP0132群で24週後に増加。Lachnospiraceaeという菌種がLP0132群で24週後に増加した。
これらの結果から、重症牛乳アレルギーの子どもに対する牛乳経口免疫療法に加えて加熱死菌乳酸菌(LP0132)発酵果汁飲料を摂取することで、24週後の牛乳アレルギーの閾値改善効果は認められなかったが、腸内環境の変化により、免疫のバランスは潜在的にアレルギー体質が改善し、耐性獲得の方向へシフトした可能性が考えられた。
今回は「重症」の子どもに対する「短期間」の結果
重症牛乳アレルギーの子どもに対する「牛乳経口免疫療法+加熱死菌乳酸菌(LP0132)発酵果汁飲料」の牛乳アレルギーの閾値改善効果は、24週後では明らかにならなかった。一方、耐性獲得と関連する特異的IgG4抗体価がLP0132群で低下しなかったこと、アレルギーと関連するサイトカイン・ケモカインがLP0132群で低下したこと、また、LP0132群で腸内細菌叢の多様性が高く、食物アレルギー者より健常者で多いLachnospiraceaeが増加したことから、24週間で免疫のバランスについて潜在的にアレルギー体質が改善し、耐性獲得の方向へシフトした可能性があり、それに腸内環境が関与している可能性が考えられた。
「本研究では重症の食物アレルギーの子どもを対象としたこと、また探索的な研究であり、24週間という短期間での評価であったことを考慮する必要がある」と、研究グループは述べている。
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・国立成育医療研究センター プレスリリース