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C.difficile感染症、難吸収性抗菌薬の至適な用法用量を評価する手法を構築-慶大

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2023年03月20日 AM11:52

CDI治療に用いられるFDXとVCM、血中濃度を指標とした従来のPK/PD評価法が使えない

慶應義塾大は3月16日、従来のpharmacokinetics/pharmacodynamics(PK/PD)評価法が適用できない難吸収性抗菌薬について、糞中動態に基づく新たなPK/PD評価法を構築ししたと発表した。この研究は、同大大学院薬学研究科博士課程4年の田代渉大学院生、薬学部の田口和明准教授、松元一明教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Clinical Microbiology and Infection」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

2019年に米国疾病対策予防センターは薬剤耐性菌の現状、そして必要な対策を周知させるため、「Antibiotic Resistance Threats in the United States, 2019」を発刊した。そこに脅威度レベルが最も高い「切迫したレベルの脅威」に位置づけられている薬剤耐性菌の1種として、Clostridioides difficile()が挙げられている。C.difficileは偏性嫌気性、芽胞形成性のグラム陽性桿菌であり、トキシンを産生することで腸管バリアを破壊し、腸炎による下痢を主症状とするC.difficile感染症()を引き起こす。

現在、CDI治療には、経口フィダキソマイシン(FDX)および経口バンコマイシン(VCM)がキードラッグとして使用されている。一般的に、抗菌薬の至適な用法用量は、抗菌薬の血液中濃度推移を評価する薬物動態学(PK)と、抗菌効果を評価する薬力学(PD)を統合したPK/PD評価により決定した、最適なPK/PDパラメータとその目標値を基に設定する。しかしながら、経口投与後腸管からほとんど吸収されないFDXおよびVCMは抗菌薬の血液中濃度を薬物動態の指標として用いる従来のPK/PD評価法が使用できず、FDXおよびVCMのCDIを治療するための最適なPK/PDパラメータとその目標値はいまだ明らかとなっていない。

PK/PD評価に適したCDIマウスモデルを作製、糞サンプル中抗菌薬濃度と治療効果を測定

今回研究グループは、CDIに対する新たなin vivo PK/PD評価法を構築し、FDXおよびVCMのCDIを治療するための最適な糞中PK/PDパラメータとその目標値を決定した。まず、セフォペラゾンナトリウムで前治療したマウスに、C.difficile ATCC(R) 43255の芽胞[約3.0×103 colony-forming units(CFU)/mouse]を経口感染させた。このCDIマウスモデルは、C.difficile ATCC 43255が芽胞感染24時間後から72時間後まで高いレベル(約108 CFU/g feces)で定着しており、芽胞感染72時間後までに死亡した。

PK試験では、芽胞感染24時間後にFDXまたはVCMをCDIマウスモデルに経口投与し、その後、経時的に糞サンプルを回収した。糞サンプル中抗菌薬濃度を高速液体クロマトグラフィーで測定し、ノンコンパートメント解析により糞中PKパラメータを算出した。

PD試験は、芽胞感染24時間後から48時間後までの24時間で、CDIマウスモデルにFDXまたはVCMをさまざまな用法用量で経口投与し治療した。24時間治療終了後のアウトカム[糞中生菌数と糞中芽胞数の合計(糞中C.difficile load)、糞中生菌数、糞中芽胞数、生存率、clinicalsickness score(CSS)grading(≥6.0以上でCDI臨床所見の持続を示す)]の変化を評価した。

最適な糞中PK/PDパラメータが明らかに、決定した目標値の達成で高い治療効果を示す

FDXまたはVCMの24時間治療における糞中PK/PDパラメータと24時間治療終了後のアウトカムの関係を評価し、アウトカムの変化に相関する最適な糞中PK/PDパラメータを決定した。
その結果、FDXおよびVCMともに3つの糞中PK/PDパラメータ[Cmax/MIC、初回投与後の無限時間までのAUC(AUCinf)/MIC、T>MIC]の中で、糞中AUCinf/MICが24時間治療によるアウトカム(糞中C.difficile load、糞中生菌数、糞中芽胞数、生存率、CSS grading)の変化と最も高い相関性を示した。さらに、FDXおよびVCMが糞中C.difficile load の3log10reductionを達成する糞中AUCinf/MICの目標値を算出すると、FDXで1万3,173、VCMで8,308となった。この目標値を達成したとき、CDIマウスモデルにおいて生存率はFDXで83.5%、VCMで85.6%、CSS gradingはFDXで4.9、VCMで5.6となり、高い治療効果を示した。

C.difficileに対するFDXのbreakpoint MICを世界で初めて提示

さらに、今回の研究で決定した目標糞中PK/PDパラメータ値と臨床試験で報告されているCDI患者における糞中抗菌薬濃度を基にC.difficileに対するbreakpoint MICを予測した。その結果、C.difficileに対するbreakpoint MIC は、FDXで1.0µg/mL、VCMで2.0µg/mLだった。VCMについて、ヨーロッパ抗菌薬感受性試験法検討委員会および米国臨床検査標準委員会が設定しているC.difficileに対するbreakpoint MIC(2.0µg/mL)と同じ値を予測できた。

これは、構築した糞中動態に基づいたin vivo PK/PD評価法が高い精度で難吸収性CDI標準治療薬のPK/PDパラメータとその目標値を決定できることを裏付けている。一方、FDXのbreakpoint MICは世界においていまだ設定されていないが、この評価モデルにおいてC.difficileに対するbreakpoint MICを提示できたことは臨床的に意義があると考える。

今後、CDI患者対象の臨床試験データで妥当性を評価予定

今回の研究結果により、FDXおよびVCMのCDIを治療するための最適な糞中PK/PDパラメータとその目標値を決定した。「今後、CDI患者を対象とした臨床試験データを基に本評価法の妥当性を評価する予定である。CDI治療薬のPK/PD理論に基づく至適投与法の構築は、臨床現場における抗菌薬選択や用法用量の決定などに貢献すると考えている。加えて、構築したCDIに対するin vivo PK/PD評価モデルは、新規CDI治療薬の非臨床PK/PD試験法として使用できるため、新薬の開発促進につながると期待される」と、研究グループは述べている。

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