大規模rsfMRIデータセットで3疾患の脳内大規模ネットワーク間の因果性結合を評価
東京大学は3月15日、精神疾患の安静時機能的磁気共鳴画像の大規模データセットを用いて、統合失調症・うつ病・双極性障害に共通する脳内大規模ネットワーク間の因果性結合異常を明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院総合文化研究科附属進化認知科学研究センターの小池進介准教授(東京大学 国際高等研究所ニューロインテリジェンス国際研究機構(WPI-IRCN)連携研究者)、和歌山県立医科大学神経精神医学講座の石田卓也助教、東京大学医学部附属病院精神神経科の笠井清登教授(東京大学 国際高等研究所ニューロインテリジェンス国際研究機構(WPI-IRCN)主任研究者)、同・放射線科の阿部修教授、広島大学医学部附属病院精神神経科の岡本泰昌教授、京都大学医学部精神医学講座の村井俊哉教授、国際電気通信基礎技術研究所(ATR)の川人光男所長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Schizophrenia Bulletin」オンライン版に掲載されている。
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ヒトの感情や認知機能の遂行は、機能的に接続された別々の脳領域同士が共同して働くことで支えられ、脳の大規模ネットワークを形成することが知られている。脳内大規模ネットワークには、視覚ネットワーク(VIN)、体性運動ネットワーク(SMN)、背側注意ネットワーク(DAN)、顕著性ネットワーク(SAN)、大脳辺縁ネットワーク(LIN)、前頭頭頂制御ネットワーク(FPN)、デフォルトモードネットワーク(DMN)などが存在している。統合失調症やうつ病、双極性障害などの精神疾患では、これらのネットワーク間の機能的な結合の仕方に異常を来していると考えられている。
これまでにも、さまざまな精神疾患における脳内大規模ネットワーク間の機能的な結合異常が報告されてきたが、研究結果が一致しないことが多く、一貫性のある結論は出ていなかった。主な理由として、サンプル数の少ない単独の精神疾患群と健常者群との比較がほとんどであり、機能的な結合の評価も脳領域間の時系列データの相関係数を取るのみで評価しており、脳領域間の因果関係が考慮されてこなかったことが挙げられる。
近年、rsfMRIを用いた「Dynamic Causal Modeling(DCM)」という脳領域間の因果関係を考慮に入れた機能的な結合(因果性結合)を評価する方法が開発された。研究グループは今回、大規模rsfMRIデータセットを用いて、統合失調症・うつ病・双極性障害における7つの脳内大規模ネットワーク間の因果性結合をDCMで評価することにより「3疾患群で共通した脳内大規模ネットワーク間の因果性結合異常」と「各疾患群特異的な脳内大規模ネットワーク間の因果性結合異常」をそれぞれ明らかにすることを目的として研究を行った。
3疾患共通で「LIN」の自己抑制性の因果性結合が減少
研究グループは、東京大学、京都大学、広島大学の4つの大規模データセットから健常者390人、統合失調症患者143人、うつ病患者163人、双極性障害患者43人のrsfMRIを用いて、7つの脳内大規模ネットワーク間の因果性結合を評価し、比較を行った。
その結果、大脳辺縁ネットワーク(LIN)の自己抑制性の因果性結合が、3つの疾患で共通して減少していることが判明。また、統合失調症ではLINから複数のネットワークへの因果性結合が増大しており、うつ病では体性運動ネットワーク(SMN)の自己抑制性の因果性結合が増大し、背側注意ネットワーク(DAN)の自己抑制性の因果性結合が減少し、双極性障害では顕著性ネットワーク(SAN)の自己抑制性の因果性結合が増大していることが明らかになった。
また、統合失調症のLINの自己抑制性の因果性結合は幻聴や妄想などのPANSSで評価した陽性症状と、うつ病のDANの自己抑制性の因果性結合はBDI-IIで評価した抑うつ症状と、双極性障害のSANの自己抑制性の因果性結合はYMRSで評価した躁症状と、それぞれ関連していることが明らかになった。
脳内大規模ネットワーク間の因果性結合異常、重要なバイオマーカーとなる可能性
このことは、LINにおける自己抑制性の因果性結合の減少が疾患横断的に共通する重要なネットワーク異常であり、また、各疾患特異的なネットワークの因果性結合異常が各疾患の症状に関連していることを意味するという。脳内大規模ネットワーク間の相互作用異常の特徴は、精神疾患の病態機序における重要なバイオマーカーになる可能性が示唆された。
疾患横断的に精密検証し、精神疾患の病態基盤解明を目指す
今回の研究は、多施設から成る大規模rsfMRIデータセットで、7つの脳内大規模ネットワーク間の統合失調症・うつ病・双極性障害で共通した因果性結合異常、さらに各疾患特異的な因果性結合異常を明らかにした世界初の研究となる。
「今後は脳内大規模ネットワーク間の相互作用異常を他の精神疾患にも適応を拡大させ、疾患横断的にさらに精密に検証し、精神疾患の生物学的な病態基盤の解明を目指していきたい」と、研究グループは述べている。
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・東京大学 プレスリリース