医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 呼吸補助療法「腸換気法」の有効性を、呼吸不全のブタモデルで検証-名大ほか

呼吸補助療法「腸換気法」の有効性を、呼吸不全のブタモデルで検証-名大ほか

読了時間:約 3分6秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2023年03月16日 AM10:52

腸換気法の有効性はマウスなどの哺乳類で確認済み、よりヒトに近い大動物モデルで

名古屋大学は3月13日、液体酸素パーフルオロカーボンを腸管へ投与する「」が、低酸素状態のブタに対して自己肺機能に依存しない換気効果をもたらすことを証明したと発表した。この研究は、同大医学部附属病院・麻酔科の藤井祐病院講師、同大大学院医学系研究科・麻酔・蘇生医学の西脇公俊教授、呼吸器外科学の芳川豊史教授および東京医科歯科大学・統合研究機構の武部貴則教授らの共同研究グループによるもの。研究成果は、「iScience」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

コロナウイルス感染症をはじめ、呼吸器感染症などで爆発的に増加しつつある呼吸不に対しては一般的に酸素療法が用いられるが、重症な場合には人工呼吸管理や、体外式膜型人工肺(Extracorporeal Membrane Oxygenation:ECMO)管理が行われる。しかし、これらの重篤な合併症として、人工呼吸により肺が障害されること、重要臓器に出血・血栓症が生じること、全身の感染症を招く恐れなどがある。さらに、これらの実行には高度な医療機器や人的リソースを要するため、パンデミック時には需給バランスが破綻し医療資源のアクセスが困難になり、救えない人命が多数生じることが浮き彫りになっている。そのため、医療現場では、より安全・低侵襲・簡便に酸素効果や換気効果をもたらす新規の呼吸補助療法が切望されている。

これらの課題解決を目指し研究グループは、自己の呼吸機能補助の戦略として、ドジョウなどの水棲生物がエラ呼吸・皮膚呼吸だけでなく腸呼吸を行うことに注目。これまでに、マウスなどの哺乳類でも腸管を用いた呼吸手法である「腸換気法(通称 EVA法:Enteral Ventilation)」が可能なことを報告している。そこで今回、よりヒトに近い状態を再現する「大動物呼吸不全モデル」を用いた腸換気法の有効性検証を試みた。

酸素化PFDをブタの腸管内投与で、低酸素状態改善に加え「換気効果」もあることを確認

まず、ヒトに外挿性の高いブタを用いて、麻酔・筋弛緩剤を投与した状態で人工呼吸管理によって呼吸機能を調節し、低酸素状態にした呼吸不全モデルを確立した。次に、すでに医療現場において使用実績がある直腸カテーテルやパーフルオロデカリン(Perfluorodecalin:PFD)を選定し、臨床応用においても使用可能な投与プロトコルを開発した。事前に酸素をバブリングしたPFDを浣腸のように肛門に挿入したカテーテルから投与を行い、その後、血液中の酸素濃度や二酸化炭素分圧を評価することで腸管を介した換気効果を検証した。

その結果、酸素化したPFDを腸管内に投与している間は、低酸素状態の改善効果だけでなく、二酸化炭素の減少効果(換気効果)をもたらすことが判明。さらに、その効果はPFDの排泄で元の状態に戻ることから、PFDの投与により改善しているという証左を得た。

腸管から流出する複数の静脈血行を介して酸素化、重篤な副作用なし

次に、腸管のいずれの血管から酸素化が生じるのかを検証する目的で、複数の静脈血行路にカテーテルを留置。酸素化状態を評価した結果、腸管から流出する複数の静脈血を酸素化することが示された。同プロセスにおいて、腸換気法中の循環動態(血圧や脈拍)および腸管や脾臓などにおいても重篤な副作用は認められず、腸換気法が安全に実施可能であることが実証されたとしている。

臨床応用を目指し臨床試験が進行中、全く新しい呼吸補助療法の開発に期待

今回の研究成果により、医学史上全く新たな概念と言える腸換気法が、低酸素血症の大動物においても明快な有効性・安全性をもたらすことが、世界で初めて実証された。さらに、複数の静脈血行を介した腸換気法の効果が確認されたことにより腸換気が生じる作用機序や、その定量的な理解につながることが期待される。

同手法は将来的に、さまざまな用途での臨床使用が期待される。例えば、突如として発生する呼吸器感染症のパンデミックのような状況下において十分な医療資源が確保できない場面、他医療施設へ救急搬送が必要な場面、医療施設内において呼吸不全が徐々に進行する際に医療スタッフの人的確保や高度な酸素療法の提供までに時間的猶予が必要な場面、集中治療管理において重症呼吸不全に対するECMO導入までの時間的猶予の確保が必要な場面などが想定される。さらには、在宅での使用や、航空・宇宙医学、スポーツ医学などの分野においても活用が期待される。

今後、同研究グループでは臨床応用を目指し、医療機器としてヒトにおいて有効性と安全性を確認していくことが必要となるが、現在、東京医科歯科大学発ベンチャーの株式会社EVAセラピューティクス、丸石製薬株式会社とともに、臨床試験を進めているという。「本手法の臨床応用が実現すれば、肺機能に依存しない全く新たな呼吸補助療法により、従来救うことが困難だった人命救助に資する画期的な治療手段を提供できるものと大いに期待される」と、研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 前立腺がん、治療決定時SDMが患者の治療後「後悔」低減に関連-北大
  • 糖尿病管理に有効な「唾液グリコアルブミン検査法」を確立-東大病院ほか
  • 3年後の牛乳アレルギー耐性獲得率を予測するモデルを開発-成育医療センター
  • 小児急性リンパ性白血病の標準治療確立、臨床試験で最高水準の生存率-東大ほか
  • HPSの人はストレスを感じやすいが、周囲と「協調」して仕事ができると判明-阪大