多様性があるがん組織、単一の人工知能モデルでは予測精度に制限
東京医科大学は3月13日、乳がん患者の針生検組織画像データから、術前化学療法の治療効果を高い精度で予測する人工知能(AI)モデルを世界に先駆けて開発したと発表した。この研究は、同大分子病理学分野の黒田雅彦主任教授、沈彬客員講師、乳腺科学分野の石川孝主任教授、上田亜衣講師、人体病理学分野の長尾俊孝主任教授ら、米国コーネル大学の研究グループによるもの。研究成果は、「The Journal of Pathology: Clinical Research誌」にオープンアクセス論文として掲載されている。
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乳がんは、世界で1番多い悪性腫瘍とされている。国内では、毎年約9.7万人が乳がんと診断され、約1.4万人が死亡している。近年、乳がんの治療は飛躍的に進歩しており、特に局所進行乳がんに対しては術前化学療法が一般的な治療法となっている。術前化学療法により腫瘍組織が縮小し、乳房温存率の向上や再発・転移の予防が期待できる一方、術前化学療法が無効の場合、腫瘍の増大や病勢進行のリスクがある。現在では、乳がんのサブタイプ以外に、術前化学療法への感受性を示す明確な因子が特定されていない。そこで、治療効果を正確に事前予測することは治療戦略の構築には不可欠となる。
一方、現在は、人工知能技術、デジタル病理画像解析技術の発展により、人間の目では確認できない組織や細胞の特徴を捉え、人工知能モデルによる予後予測研究が世界的に行われている。しかし、がん組織は非常に多様性があり、単一の人工知能モデルでは予測精度が制限される。
マルチAIパイプライン、乳がん術前化学療法の治療効果予測95.15%
今回の研究では、がん組織とがん細胞の特徴にそれぞれ合わせた人工知能技術を利用し、病理形態学的情報の抽出・解析に成功。また、世界で初めて、乳がん術前化学療法に対して複数の人工知能技術を融合したマルチAIパイプラインで、術前化学療法の治療効果を高精度(95.15%)に予測する結果を得た。今後の臨床応用に向けて人工知能を活用する場面での有効な方法論が示され、乳がんの術前化学療法において個別化医療の導入に貢献することが期待される。
より高度に判断できる診療補助システム開発を目指す
病理学的画像のみならず、今まで個別に検討してきた分子診断結果・放射線画像・臨床情報などの医療情報を統合化し、より高度な判断を行える診療補助システムの開発を目指す、と研究グループは述べている。
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