先行調査が少ない日本の大学生に特化したヘルスリテラシーに関する調査を実施
大阪公立大学は3月7日、2020年12月と2021年10月に、大阪市立大学または大阪府立大学に在学している学生を対象に実施した、ヘルスリテラシー(HL)と生活習慣・健康QOLの関連性を明らかにするためのWEB調査(有効回答1,049)の結果を発表した。この研究は、同大都市健康・スポーツ研究センター 横山久代教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Healthcare」にオンライン掲載されている。
新型コロナウイルス感染拡大に伴い、スーパーマーケットでの食料の買い占め、医療従事者やその家族への偏見・差別、ワクチンの副反応報告への過剰反応など、メディアを通じて目にしてきた冷静さを欠く行動は、例を挙げればキリがない。このような経験を通じ、健康に関する正しい情報を入手し理解した上で、自らの行動のための意思決定を行うことがいかに重要かということが示された。
一方、HLが不十分だと健診や予防接種などの利用率が低く、余分な医療費がかかることなどが明らかになっている。特に、生活面・精神面で親からの自立を果たす時期にある大学生のHLを向上させることは、個人の健康増進につながるのはもちろんのこと、社会全体の健康促進にも大いに貢献すると考えられる。しかし、大学生のHLについて調べた国内外の報告は多くない。そこで研究グループは今回、大学生のHLの現状を評価するとともに、関連する要素について明らかにすることを目的として研究を行った。
健康・医療情報を評価、活用する能力のスコア「低」
研究では、大阪市立大学または大阪府立大学の在学生を対象に、スマートフォンを用いたWEB調査を実施した。調査内容は(1)日本語版 the 47-item European Health Literacy Survey Questionnaire(HLS-EU-Q47)を用いたHLの自己評価、(2)American College Health Associationが提唱する大学生の主たる健康課題に関する設問、(3)SF-36による健康状態を測る設問、その他属性・基本情報で構成した。あわせて、日頃健康に関する情報を得たり活用したりする際に気を付けていることや難しいと感じることについて、自由記述による回答を求めた。
1,049人からの有効回答を分析したところ、ヘルスケア、疾病予防、ヘルスプロモーションの3つの領域における健康情報を「評価」する能力、ならびにヘルスプロモーション領域における健康情報を「活用」する能力のスコアが低いことがわかった。
全体の85%がヘルスリテラシーに問題あり、特に女性・低学年で「多」
HLS-EU-Q47の総合点から、HLのレベルを分類すると、全体の85%がHLに「問題あり」または「不十分」に該当し、特に女性、低学年ではその割合が大きくなった。また、良好な睡眠、食事、対人関係を心がけ、実践できていると回答した学生ほどHLS-EUQ47の総合点が高く、HLが高いことは自覚的な健康状態が良好であることと関連した。
HLのレベルに性差が見られたため、自由記述回答の内容について計量テキスト分析を行い、男女別に特徴を見たところ、男性では「鵜呑みにしない」「複数(の情報)を比較する」「発信源を確かめる」など、健康情報に接する際の具体的な心構えに関する回答が多く見られた。
以上の結果から、同対象のHLは低い水準にあり、特に「入手した健康情報の信頼性を評価すること」「健康増進のために情報を活用すること」への自信の無さが見られた。一方、HLが高いことは、「健康維持にとって良好な生活習慣をもつこと」や「自覚的な健康度が高いこと」と関連したとしている。
健康情報を「評価・活用」する能力を高めるための教材開発や介入プログラムの構築が重要
今回の結果を踏まえ、今後は単なる健康教育の提供のみに留まらず、健康情報を評価・活用する能力を高めるための教材の開発や、効果的な介入プログラムの構築を進めることが重要だ。さらに、そのような介入が実際に学生のHLを高め、健康状態を改善するかどうかについて検証を行っていくことも必要だ。
「対象となった学生のヘルスリテラシーは、他国の大学生と比較しても低いことがわかった。日本ではヘルスリテラシーの獲得が標準的な教育カリキュラムに位置付けられていないが、今回の結果を受け、健康情報を評価、活用する能力を高めるための実践的な取り組みを開始した。学生の生涯にわたる健康づくりにコミットしたいと思っている」と、研究グループは述べている。
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・大阪公立大学 プレスリリース