COVID-19オミクロン株、出現前開発の治療用抗体が効かなくなるという課題
京都大学は2月17日、新型コロナウイルスの懸念される変異株(VOC:variant of concern)であるオミクロン株(B.1.1.529, BA系統)を含む変異株に対して、高い中和活性を示すナノボディ抗体であるP17およびP86を三量体化することでその中和活性を向上したTP17およびTP86抗体を創出したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科の高折晃史教授、医薬基盤・健康・栄養研究所霊長類医科学研究センターの保富康宏センター長、株式会社COGNANO、横浜市立大学、東京大学の研究グループによるもの。研究成果は、「Communications Medicine」にオンライン掲載されている。
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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、2年半以上経った2022年11月現在においてなお完全な収束には至らず、これまでに世界で約7億人が感染し、700万人が亡くなった。新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、変異を繰り返して広まり、現在主流である「オミクロン株」は、それまでのVOC(アルファ株、ベータ株、ガンマ株、デルタ株)と比べて、スパイクタンパク質の変異箇所が圧倒的に多く、以前感染した人やワクチン接種者にも感染する。また、オミクロン株によるCOVID-19には、その出現前に開発された治療用抗体のほとんどが効かなくなることが明らかになっている。
ナノボディ抗体P17・P86、三量体化で中和活性上昇と感染モデルマウスの生存延長に成功
今回、研究グループは、これまでに樹立した、SARS-CoV-2に対して有効なナノボディ抗体P17およびP86を二量体化、三量体化することでその中和活性を上昇させることに成功。ナノボディ抗体とは、ラクダ科の動物(アルパカなど)とサメ科の動物が持つ、重鎖のみからなる特殊な抗体だ。
三量体化ナノボディ抗体であるTP17およびTP86を同時に経気道的に投与したところ、致死量の新型コロナウイルスの従来株、デルタ株、オミクロンBA.1株を感染させたヒトACE2発現遺伝子改変マウスの体重減少を抑制し、生存期間を延長することが確認された。
より中和活性の高い改良ナノボディ抗体で、臨床応用目指す
今回の研究により、これまでに樹立したナノボディ抗体を短期間で改変(二量体化、三量体化)し、より有効な抗体を作製した。また、動物実験により致死量の新型コロナウイルスを感染させたマウスの病状の悪化を遅らせることに成功したことから、ウイルス曝露後の重症化予防に有効であることが期待されるという。
研究グループは、すでに大阪大学の研究グループとの共同研究でスパイクタンパク質との結合様式を特定しており、さらなる改良を進めたいとしている。また、ナノボディ抗体は遺伝子工学による改変がしやすく、ヒト抗体よりも数千倍安価に生産可能。「同研究で得られた知見に基づき、より中和活性の高い改変ナノボディ抗体を作成し、臨床応用を目指す」と、研究グループは述べている。
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・京都大学 プレスリリース