認知症やMCI患者の多くに伴う歩行異常やバランス障害に着目
筑波大学は2月7日、バランス能力を測定する新しい指標「VPS(姿勢安定性視覚依存度指標)」を開発し、これを用いることで「軽度認知障害(MCI)」の高感度なスクリーニングが可能となることを臨床研究により実証したと発表した。この研究は、同大医学医療系ニュートリゲノミクスリサーチグループの矢作直也准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「BMC Geriatrics」に掲載されている。
画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
日本国内の認知症患者は500万人を超え、関連医療費は年間14兆5000億円を上回ると言われている。認知症の約7割を占めるアルツハイマー病の発症や重症化を予防するには、その前段階であるMCIの段階から早期介入を始めることが重要だとされるが、MCIはほとんど自覚症状がないため発見が困難だ。つまり、MCIを早期発見できるかが認知症予防の鍵を握っていると言える。
認知症やMCI患者の多くは、歩行異常や転びやすいなどのバランス障害を伴うことがよく知られている。研究グループは以前から、小児から高齢者までの幅広い年齢層や、アスリートなどさまざまな属性を対象にバランス能力測定を行っており、その中で認知機能との関連性に早くから着目してきた。
バランスWiiボードで認知機能と相関するバランス能力が5分程度で測定可能に
研究ではまず、任天堂の「バランスWiiボード」の性能の高さに注目し、医療機器として認証されている重心動揺計と比較検証を行った結果、同等に使用可能なことを示した。
次に、バランスWiiボード用のWindowsアプリケーションを独自に開発し、そのアプリケーションを用いて臨床研究を行った。臨床研究には、日常生活に支障のない健康なボランティア(56歳以上75歳以下)をメディア広告やウェブサイトで募集し、49人の被験者が参加した。
さらに研究グループは、認知機能と相関するバランス能力指標として、VPS(Visual dependency index of postural stability:姿勢安定性視覚依存度指標)を開発。VPSは重心動揺計の上に立つことのできる対象者であれば誰でも5分程度で測定可能な簡便な身体能力指標で、すでに特許出願済みだという。
簡便かつ高感度にMCIのスクリーニングを行えることを確認
研究の結果、MoCA-Jの点数とVPS値の間に有意な負の相関性が示され、MoCA-JでMCIと判定された16人ではVPS値が有意に健常群(33人)を上回ることが示された。また、検査や診断薬の性能を評価するためのROC曲線では、曲線下面積(AUC)が0.8と高い感度と特異性を示した。
以上のことから、バランスWiiボードを用いて、簡便かつ高感度にMCIのスクリーニングを行えることが明らかになった。
薬局でバランス能力測定・MCI早期発見研究を実施中、認知症発症予防への貢献に期待
研究グループは、判定の特異性を高めるため、他の手法との組み合わせを検討した上で同研究成果を実用化する予定。なお、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の研究開発型スタートアップ支援事業/NEDO Entrepreneurs Program(NEP)に採択され、ウエルシア薬局株式会社との共同研究のもと、茨城県つくば市内の同薬局店頭で、同システムによるバランス能力測定・MCI早期発見研究を実施中だとしている。
「本研究成果に基づき筑波大学発ベンチャーが創業準備中で、本件の事業化を推進する。日本国内のMCI患者は400万人以上と推定され、全世界ではその10~20倍規模だ。本システムが社会実装されることにより、認知症が前段階で早期に発見され、早期治療介入の道が開かれれば、認知症発症予防に大きく貢献することが期待される」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・筑波大学 TSUKUBA JORANAL