TRPV4の大腸における詳細なメカニズムは不明だった
聖マリアンナ医科大学は1月31日、便秘症における腸内細菌と「TRPV4」イオンチャネルが関与するメカニズムを初めて明らかにしたと発表した。この研究は、同大内科学(消化器内科)渡邊嘉行非常勤講師、伊東文生特任教授、山本博幸大学院(バイオインフォマティクス学)教授、富山大学学術研究部医学系(医学)内科学(三)講座 三原弘研究協力員、安藤孝将講師、安田一朗教授、福岡歯科大学細胞分子生物学講座などの国際共同研究グループによるもの。研究成果は、「BMC Gastroenterology」に掲載されている。
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大腸が刺激されると排便が誘発されるが、便秘患者ではこの大腸の感受性に異常があること、腸内細菌に変化があることが知られていた。また、TRPV4は、引っ張り刺激、低浸透圧、体温で活性化されるイオンチャネルで、炎症物質であるTNFαによって増加することが知られていた。一方、腸に良い影響を与える酪酸にはTNFαの増加を抑える効果も知られていた。しかし、大腸における詳細なメカニズムは不明だった。
研究グループは、TRPV4が結腸を含む消化管全体に存在し、生理的または異常な消化管運動と知覚に関連していること、また、ピロリ菌が胃に感染すると、TRPV4の遺伝子に変化が生じて、TRPV4の量が減少してしまい、ピロリ菌を除菌することで回復することを示してきた。
大腸をある種の腸内細菌の分泌物で刺激するとTRPV4が増加、酪酸が増加を抑制
研究グループは今回、大腸におけるTRPV4の量を調整する腸内細菌、TNFα、酪酸のメカニズムの解明を目的に実施。加えて、便秘患者の大腸でのTRPV4の量、症状の重症度、腸内細菌がどのように関連しているかなどについても調べた。
ヒト結腸上皮細胞株と腸内細菌を1種類ずつ一緒に培養したところ、ひっぱり刺激を感じるTRPV4が、ある種のクレブシエラ菌、腸球菌、大腸菌と一緒に培養することで、増加することが観察された。また、その変化は菌そのものではなく、菌からの分泌成分であることも判明。ある種の腸内細菌の分泌成分「酪酸」と一緒に培養することで、TRPV4の増加が抑制された。
以上の結果から、酪酸菌群の減少と、ある種のクレブシエラ菌、腸球菌、大腸菌の増加による、未知の分泌成分が大腸上皮のTRPV4の増加を介して、結腸の感受性を障害させている可能性が示唆された。
便秘患者の大腸でTRPV4が増加していることを確認
便秘患者の各種症状と、結腸粘膜のTRPV4の量、粘膜腸内細菌の分布の関連を検討したところ、便秘患者ではTRPV4の量が増加しており、TRPV4の量および、結腸粘膜での腸球菌の頻度が、いくらかの便秘症状と関連していたという。
便秘症の発症予防や治癒につながる新たな治療戦略創出に期待
今回の研究成果により、便秘症におけるある種のクレブシエラ菌、腸球菌、大腸菌やTNFα、酪酸によって調整されるTRPV4の量の新たな調整メカニズムが示された。大腸の引っ張り刺激の感受性の調節には、腸内細菌層とその分泌成分、炎症物質TNFαのバランスが重要だ。
「従来、大腸の感受性が低下することが便秘の原因とされてきたが、便秘患者では引っ張り刺激を感じるTRPV4が増加することが大腸を鈍感にしている可能性を示唆する本知見は、複雑な便秘症発症の解明に貢献するもので、便秘症を根本から治癒したり、発症を予防したりする新しいコンセプトを持つ治療戦略の創出への応用が期待される」と、研究グループは述べている。
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