mRNAワクチン接種後の免疫応答、加齢による変化は?
京都大学iPS細胞研究所(CiRA)は1月13日、新型コロナウイルスワクチン接種後の免疫応答を詳細に解析し、高齢者においてヘルパーT細胞応答の立ち上がりが遅いことが、抗体産生やキラーT細胞の活性化や副反応の頻度が低いことと関係することを明らかにしたと発表した。この研究は、同研究所未来生命科学開拓部門の城憲秀助教、濵﨑洋子教授、京都大学医学部附属病院クリニカルバイオリソースセンター、次世代医療・iPS細胞治療研究センターらの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Aging」に掲載されている。
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高齢であることは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症化の最も大きな危険因子である。これは、加齢に伴って免疫の機能が低下することが大きな原因であると考えられている。T細胞は、抗体応答やウイルス感染細胞の排除や抗体応答において中心的な役割を担う免疫細胞である。しかし、T細胞の産生と教育を行う臓器である胸腺は、人生の早い段階から退縮してしまうため、新しく作られるT細胞は減少し、体内のT細胞は加齢とともにさまざまな機能不全を起こす。このため、高齢者にはワクチン接種が強く推奨されるが、ワクチン接種そのものが個人の免疫機能を利用して免疫を増強する方法であるため、一般的に免疫機能が低下した人では接種の効果や効能も限定的であるとされている。
パンデミックを機に新たに開発された新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のmRNAワクチンは、65歳以上の高齢者においても、感染や重症化の予防に高い有効性を示した。しかし、誘導される抗体価は高齢者では低いことがわかっている。また、サイトカインを放出してキラーT細胞や抗体産生を活性化するヘルパーT細胞(Th1細胞およびTfh細胞)の応答も、高齢者、特に80歳以上の人では低いという報告がある。しかし、T細胞応答の動態の違いやヘルパーT細胞応答が低下する仕組み、抗体応答やキラーT細胞の活性化との関係は明らかではなかった。また、従来のワクチンと比べてmRNAワクチンは顕著な副反応を起こすことも特徴の一つとされている。これまでに、副反応が強いと血中の抗体価が高いことを示す研究報告がいくつかあるが、サイトカイン産生により発熱や倦怠感など全身性の影響を引き起こす可能性のあるT細胞応答との関係は検討されていなかった。
新型コロナウイルスワクチン接種前/後の抗体価やT細胞の立ち上がりを評価
研究グループは、基礎疾患を持たない健康な日本人のmRNAワクチン接種後の免疫応答を詳細に調べることで、免疫老化の基礎となるT細胞応答の加齢変化の実態とそのメカニズムの一端を明らかにした。
研究参加者は、新型コロナウイルスワクチン(新型コロナウイルス スパイクタンパク質に対する免疫応答を誘導するmRNAワクチン:Pfizer社製 BNT162b2)を2回接種する予定で新型コロナウイルスに感染歴のない健康な20歳以上の日本人とし、ワクチン接種前、1回目接種から約2週間後、2回目接種から約2週間後、1回目接種から3か月後に、血液を採取した。また、ワクチン接種後の副反応として、接種部位の痛みおよび発熱等について米国食品医薬品局(FDA)の基準や先行研究に従って評価した。
高齢者ではワクチン接種後の抗体価上昇は低く、ヘルパーT細胞応答の立ち上がりが遅い
新型コロナウイルスの表面にあるスパイクタンパク質のうち、細胞に感染する際に重要な受容体と結合する部分(RBD)に対する抗体量(抗体価)を調べたところ、成人も高齢者もワクチン2回接種後に抗体価の大幅な上昇が見られた。ピーク値は、成人(中央値:2万7,200)と比べて高齢者(中央値:1万8,200)では40%程度低い値になったが、個人差も大きく、最大値と最小値は、両群ともに約100倍もの違いがあった。
次に、抗体産生を助けるヘルパーT細胞に着目した。ワクチンに反応するヘルパーT細胞の割合を調べたところ、これまでの報告と同様に1回目の接種により大きく増えた後、2回目の接種では1回目の接種後と同程度を保ったが、3か月後には減少した。高齢者では、ワクチンに反応するヘルパーT細胞の割合が1回目の接種後では成人と比べて低く、2回目接種後に成人と同程度になった。しかし、3か月後には再び少なくなった。サイトカインを産生するヘルパーT細胞(IFN陽性のヘルパーT細胞)で評価しても同様の傾向がみられた。
2回目接種後に38℃以上の発熱があった人は抗体価が高くなる傾向
2回目接種後、局所的な副反応である接種部位の痛みは、成人・高齢者ともに同程度の割合で見られた。38℃以上の発熱や倦怠感・頭痛など、全身性の副反応については、高齢者では成人と比較して少なくなった。また、2回目接種後に38℃以上の発熱があった人となかった人の間で抗体価とT細胞の応答を比較したところ、発熱があった人の方が1回目接種後のT細胞応答と2回目接種後の抗体価が高くなっていた。
免疫応答を抑えるPD-1の発現、高齢者で高い値を示す
高齢者においてヘルパーT細胞の応答が弱いメカニズムを明らかにするため、過剰な免疫反応を防ぐために免疫応答を抑えるPD-1に注目した。ワクチンに反応するTh1細胞におけるPD-1の発現は、2回目接種後にピークを迎えるが、高齢者では成人と比べて高い値になった。また、PD-1の発現が高い高齢者では、キラーT細胞の誘導が低い傾向が見られた。
免疫療法の効果や副反応の個人差・年齢差のメカニズムの理解にもつながる可能性
今回の研究では、mRNAワクチンに対するT細胞応答が年齢によってどのように異なるのか、詳細に調べた。高齢者では成人と比較して、新型コロナウイルスに反応するT細胞の誘導が遅いこと、早期に反応が収まることが明らかになった。また全身性副反応が強いことは、ヘルパーT細胞応答の迅速な立ち上がりと、それに伴う効率的な抗体・キラーT細胞応答誘導の指標になると考えられる。「本成果は、免疫機能が低い人に対しても高い有効性を持つワクチンの開発や、高齢者 ・若年者それぞれの免疫特性に適したワクチン接種スケジュールの立案に役立つ可能性がある。また、ワクチン以外のさまざまな免疫療法の効果や副反応の個人差・年齢差のメカニズムの理解とその克服に貢献することが期待される」と、研究グループは述べている。
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