ツイートデータを時系列的に分析し、ワクチンに関する興味・関心の変化を調査
東京大学は12月23日、新型コロナウイルスワクチン接種期間中の2021年1月から10月までにTwitterで投稿された「ワクチン」を含む1億件以上の日本語の全ツイートデータを時系列的に分析し、2021年6月から開始された職域接種を境に、人々の関心が社会的トピックから個人的事柄へと推移したことがわかったと発表した。この研究は、同大大学院新領域創成科学研究科の小林亮太准教授、中山悠理氏(修士課程2年生)、国立情報学研究所の武富有香研究員、須田永遠研究員らと、千葉商科大学の橋本隆子教授、国立情報学研究所の宇野毅明教授、喜連川優所長、東京大学生産技術研究所の豊田正史教授、吉永直樹准教授、ベルギーのゲント大学Luis EC Rocha教授の研究グループによるもの。研究成果は「Journal of Medical Internet Research」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
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日本における新型コロナワクチンの接種は、欧米諸国と比べると2か月以上遅れて開始された。しかし、国民の間にワクチンに対する多くの不安や不満があったにもかかわらず、日本におけるワクチン接種は世界の中でも速く進み、医療従事者への接種開始からわずか8か月ほどでワクチン接種率は72%(世界229か国中14位)に達した。
ワクチンについての人々の考え方を調べることは、公衆衛生における重要な課題の1つであり、これまでは主にアンケートによって調査されてきた。しかし、同じ大規模なアンケートを繰り返し実施することは非常にコストがかかる。また、質問項目の設定によって結果が大きく変わりうることや、被験者が控えめに回答する傾向が多いことなど、アンケート調査には多くの問題点が指摘されている。
一方、スマートフォンの普及に伴い、ソーシャルメディアのデータを分析する研究も行われるようになってきた。日本ではTwitterの普及が進んでおり、20~30代のおよそ60%がTwitterユーザであると推計されている。そこで研究グループは、Twitterでつぶやかれた長期間にわたるツイートデータを時系列的に分析することで、ワクチンに関する人々の興味・関心の変化を調べた。
800万ユーザが投稿した1.1億ツイートを解析し、最終的に4つの主要な話題に振り分け
研究グループは始めに、2021年1~10月に投稿された「ワクチン」を含む全ての日本語ツイート(800万ユーザが投稿した1.1億ツイート)を収集した。次に、機械学習技術(トピックモデル)を用いて、ツイートを「ワクチン接種についての個人的感想」「ワクチンの有効性に関する議論」「接種会場からの実況」「政策に対する意見」「マスコミの報道に対する意見」などの15個のトピックに分類した。機械学習を使うと膨大なツイートをトピックに自動的に分類できるが、トピックの意味を解釈することはできない。そこで、各トピックからランダムに抽出したツイート群について、データサイエンスの研究者(小林、中山)と文学の研究者(武富、須田)が協力して精査することによって15個のトピックの意味解釈を行い、4つの主要な話題(1.個人的な事柄、2.ニュース、3.政治、4.陰謀論とユーモア)に整理した。
陰謀論関連のキーワードが含まれるツイートはわずか6%
次に、各テーマのツイート割合の時間変化を調べた。2021年1月当初は、個人的な事柄(約30%)、ニュース(約30%)、政治(約25%)、陰謀論とユーモア(約15%)というように4つのテーマにツイートは分散していた。しかし、6月の職域接種の開始以降には、ワクチン接種の予定、接種後の体調や副反応など個人的事柄に関するツイートが急増していたことがわかり、10月には個人的な事柄に関するツイートは「ワクチン」を含むツイート全体の約70%にまで増加していたことがわかった。この結果は、6月以降にTwitterユーザの興味・関心が個人的事柄という話題に集中したことを示唆している。また、陰謀論関連のキーワードが含まれるツイートの割合はわずか6%と小さく、その中には冗談をつぶやいているツイートも多かったため、日本語Twitterはワクチン関係のトピックに関しては陰謀論の温床になってないことが示唆された。
職域接種開始後、ワクチン接種の個人的事柄のツイート増
最後に、6月以降に個人的事柄に関するツイートが急増した原因を調べるため、主要なイベント(A.医療従事者の接種開始:2月、B.高齢者の接種開始:4月、C.職域接種開始:6月、D.東京オリンピック:7月)がツイートされる話題に与える影響を分析した。各話題のツイートの割合を時系列で計算し、中断時系列分析を用いてこれらのイベントが与える影響を分析した。
その結果、C.職域接種、D.東京オリンピックの2つのイベントがツイートに与える影響が大きい(統計的に有意である)ことがわかった。特に、職域接種が開始された2021年6月21日以降に個人的事柄に関するツイートの割合が急速に増加することが確認された。この結果は、多くのTwitterユーザがワクチン接種を受けることが可能となった職域接種開始以降に、Twitterユーザの興味・関心が個人的事柄に集中したことを示唆している。
Twitterが日本における迅速なワクチン接種率の向上の一因になったことを示唆
今回の研究成果は、職域接種が始まるとともに、Twitter上の人々の関心がワクチン接種についての個人的な体験に集中し、接種後の体調や副反応に対する準備などワクチン接種を受ける上で重要な情報がTwitter上で共有されたことを示している。その一方、Twitterなどソーシャルメディアの問題として、陰謀論や偽情報の拡散によるワクチン接種に与える負の影響が考えられる。今回の分析では、日本のTwitterでは陰謀論のツイートはあまり見られなかったことから、Twitterはワクチン接種を阻害する要因にはならなかったことが推測された。以上のことから、Twitterが日本における迅速なワクチン接種率の向上の一因になったことが示唆される。
「今後は、研究で行ったようなデータ解析技術を発展させることにより、公衆衛生などの政策決定を行う上で重要となる、人々の気持ちや興味・関心をおしはかる手段として、ソーシャルメディアデータ分析が活用されることが期待される」と、研究グループは述べている。
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・東京大学大学院新領域創成科学研究科 記者発表