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白血病のがん遺伝子MLL-AF4の発現制御メカニズムを発見-国がんほか

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2022年12月14日 AM11:46

MLL-AF4白血病、モデルマウス構築が困難で創薬研究が進展せず

国立がん研究センターは12月13日、悪性度が高い白血病を引き起こすMLL-AF4という遺伝子からRNAが作られ、最終的にタンパク質が作られる過程を抑制するメカニズムを発見したと発表した。この研究は、公益財団法人庄内地域産業振興センター/・鶴岡連携研究拠点がんメタボロミクス研究室の横山明彦チームリーダー、奥田博史研究員(現:横浜市立大学大学院医学研究科免疫学)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Communications」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

白血病は、若年層で最も多く見られるがんであり、現行の治療法ではなかなか治癒をもたらすことが難しい予後不良のタイプがある。染色体転座によって形成されるMLLとAF4遺伝子の融合遺伝子産物は非常に強い発がんドライバーとして機能し、予後不良の白血病を乳児の段階から引き起こす。MLL-AF4を発現する白血病はあまり付加的な変異を伴わないため、MLL-AF4は単独でも白血病を引き起こすポテンシャルを持つ発がんドライバーであると考えられている。しかし、なぜかマウスを用いた病態モデルを作ることが非常に難しいため、創薬研究が思う様には進んでいなかった。

アミノ酸配列は変えずRNA抑制を受けない改変MLL-AF4で、白血病惹起マウス構築に成功

研究グループは、MLL-AF4が何らかの抑制性の制御を受けるために、マウスの造血細胞にこの遺伝子を導入しても白血病を引き起こさないのであろうという仮説を立て、MLL-AF4の遺伝子が転写され、タンパク質として発現する過程にどのような制御を受けるかを探索した。

その結果、MLL-AF4はKHDRBSやIGF2BP2などのRNA結合タンパク質によってRNAの段階で抑制制御を受け、機能的なタンパク質として発現しないために、マウスにおける骨髄性白血病モデルを構築することができないことを見出した。MLL-AF4に操作を加えてアミノ酸配列は変えずにRNA結合タンパク質による制御を受けなくした改変MLL-AF4はマウスの造血細胞をがん化し、生体内で白血病を引き起こした。

ヒトMLL-AF4白血病、RNA結合タンパク質の抑制制御回避で発がんにつながっている可能性

さらに抑制制御のメカニズムを解析した結果、MLL-AF4のRNAはリボソームで翻訳される時に、リボソーマルストーリングと呼ばれるメカニズムを介して翻訳が妨げられるということを見出した。この様な抑制制御はヒトのAF4遺伝子だけに起こり、マウスのAf4遺伝子には起こらない。また、AF4と構造の似たファミリー遺伝子AF5Q31にはこれらのRNA結合タンパク質が認識する遺伝子配列がないため、このような抑制制御を受けない。従ってヒトのMLL-AF4だけが特別にRNA結合タンパク質によるリボソーマルストーリング制御を受けており、ヒトに見られるMLL-AF4白血病細胞では何らかの理由でこの抑制制御メカニズムを回避されるため、発がんドライバーとして機能していると考えられた。MLL-AF4は他のMLL融合遺伝子とは異なり、急性骨髄性白血病よりも、乳児においてリンパ性白血病を引き起こす傾向が強い。

MLL-AF4を不活性化する新たな分子標的療法の開発に期待

これらの結果から、骨髄性白血病の発生母地(遺伝子変異が起こる場所)となる細胞ではMLL-AF4が強い抑制制御を受けるため、骨髄性白血病を引き起こすことができないことが予想された。一方、ヒトの細胞にはAF4遺伝子の働きを強く抑制することができる仕組みがすでに備わっているという事実は、治療薬の開発において重要な知見となる。今後、薬剤などを用いて、リンパ性白血病細胞においてもこの様な抑制制御を誘導することができれば、MLL-AF4の働きを選択的に阻害する優れた治療法の開発につながると期待される。

また今回、世界で初めてレトロウイルスを用いて簡単にMLL-AF4白血病を発症させる動物モデルが構築された。MLL-AF4はMLL転座白血病で最も高頻度に見られる融合遺伝子であり、このMLL-AF4によるマウス病態モデルは今後、創薬研究を進める上で役立つと期待される。

今回得られた結果はMLL-AF4のある白血病の発生母地に関する示唆を与えている。MLL-AF4の発生母地となる細胞ではRNA結合タンパク質による抑制制御が起こらないと考えられ、そのことが、MLL-AF4がリンパ性白血病を選択的に発症させる原因であろうと予想される。また、RNA結合タンパク質による抑制制御が組織特異的に起こるのはRNA結合タンパク質の発現パターンの違いによると思われるが、薬剤によってRNA結合タンパク質の発現を調節することで、MLL-AF4を不活性化する新たな分子標的療法の開発につながる可能性がある。「これらの知見は、今後MLL-AF4によって引き起こされる白血病発症のメカニズムを明らかにし、新たな治療薬を開発する研究を加速させると期待される」と、研究グループは述べている。

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