粘膜治癒におけるLTB4-BLT1経路の病態生理学的意義は不明だった
富山大学は12月12日、腸管上皮細胞のBLT1受容体が、傷害された腸管粘膜の治癒を促進することを初めて明らかにしたと発表した。この研究は、同大和漢医薬学総合研究所の林周作助教とミシガン大学医学部のNusrat Asma教授らの国際共同研究グループによるもの。研究成果は、「JCI Insight」に掲載されている。
画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
腸管での急性および慢性炎症は、上皮の損傷に関連しており、びらんや潰瘍の形で粘膜の傷を引き起こす。粘膜での損傷に応答して、腸管上皮細胞は活発な遊走能かつ増殖能を示し、損傷部をカバーかつ上皮自身がターンオーバーすることで、粘膜バリアを再生する。この粘膜治癒イベントは、上皮細胞と好中球、単球やマクロファージなどの免疫細胞および間質細胞などがサイトカインや脂質メディエーターを介して、時空間的にクロストークすることで精巧かつ複雑に調節されている。
これまでに研究グループは、粘膜治癒において好中球が重要な役割を担っていることを観察していたが、その詳細なメカニズムは不明だった。好中球は、脂質メディエーターであるロイコトリエンB4(LTB4)を分泌し、LTB4はその受容体BLT1に結合して炎症環境への好中球を含む免疫細胞の遊走を促す。
これまでに炎症性腸疾患(IBD)患者の腸管粘膜においてLTB4レベルの上昇が観察されることから、LTB4-BLT1経路の活性化は、腸管での炎症病態の形成に関与すると推察されてきた。一方、炎症と密接に関連する粘膜治癒ではこれまで炎症惹起に関与するとされてきた因子が、上皮細胞に作用して治癒を促すことが次々と明らかにされてきている。しかし、粘膜治癒におけるLTB4-BLT1経路の病態生理学的意義については、腸管上皮細胞でのBLT1の存在を含めてこれまで知られていなかった。
IBD患者と腸管粘膜に傷をつけたマウスの腸管上皮細胞で、BLT1発現が著明に上昇
研究グループは、その一端を解明するために、炎症性メディエーターとして認識されているロイコトリエンB4(LTB4)-BLT1経路の腸管粘膜の粘膜治癒における役割を検証した。
ヒトおよびマウスの腸管粘膜において、腸管上皮細胞はBLT1を発現していた。炎症環境下では、ヒト(IBD患者の腸管粘膜サンプル)およびマウス(生検で腸管粘膜に傷を作製したモデルの腸管粘膜サンプル)腸管上皮細胞でのBLT1発現が著明に上昇していた。
腸管上皮細胞のBLT1は、傷害された腸管粘膜の粘膜治癒において重要な役割をもつ
次に、傷害後の腸管上皮細胞の修復反応におけるLTB4-BLT1経路の役割を検証。ヒト腸管およびBLT1欠損マウス腸管のオルガノイドを用いた実験系において、LTB4-BLT1経路は、腸管上皮細胞の遊走を亢進することによって傷害後の腸管上皮細胞の修復を促すことが判明した。また、腸管粘膜の治癒における生体内でのBLT1の役割を検証するため、腸管内視鏡下に生検で腸管粘膜に傷を作製してその後の粘膜治癒を評価するマウスモデルを用いた。BLT1欠損マウスでは野生型マウスと比較して、粘膜治癒の顕著な遅延が観察された。さらに、野生型とBLT1欠損マウスから骨髄細胞キメラマウスを作製し、腸管粘膜の治癒を評価したところ、免疫細胞以外に存在するBLT1が腸管での粘膜治癒に寄与することが判明した。
以上の結果より、腸管上皮細胞のBLT1は、傷害された腸管粘膜の粘膜治癒において重要な役割を担うことが明らかになった。
有用で新しいコンセプトのIBD治療戦略創出への応用に期待
今回の研究成果により、腸管上皮細胞に発現するBLT1によって調節される腸管粘膜での粘膜治癒の新たなメカニズムが示された。粘膜治癒の調節には、炎症反応と修復反応のバランスが重要だ。
「従来、専ら炎症を惹起するとされてきたLTB4-BLT1経路が粘膜治癒を促すという本知見は、複雑な粘膜治癒イベントの解明に貢献するもので、粘膜治癒の達成が再燃予防の鍵となるIBDに対する有用で新しいコンセプトを持つ治療戦略の創出への応用が期待される」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・富山大学 プレスリリース