大腸内視鏡における腫瘍性ポリープの発見率を効率良く上げる方法はなかった
東京慈恵会医科大学は12月9日、大腸内視鏡の画像情報(動画)からAI(人工知能技術)を用いて、大腸ポリープ候補の検出を支援するソフトウェア「EIRL Colon Polyp(エイル コロン ポリープ)」を共同開発し、深層学習を活用したプログラム医療機器として、薬事承認を取得したと発表した。この研究は、同大内視鏡医学講座の炭山和毅教授とエルピクセル株式会社らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Gastroenterology」に掲載されている。
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日本の大腸がんの罹患率や死亡数は年々増加しており、社会の高齢化に伴って今後も増えていくことが予想される。治療成績の向上のため大腸ポリープの早期発見・切除が重要だが、約20~40%の腫瘍性ポリープの病変が大腸内視鏡で見落とされていると報告されている。内視鏡医の腫瘍性ポリープの発見率(Adenoma detection rate: ADR)が1%上昇することで将来の大腸がんが3%減少できる可能性も報告されている。ADRの改善を目標とするために専門医の育成や最先端の内視鏡システムの普及が現在行われているが、費用や人材のコストが大きくかかるため、広く一般的に効率の良い方法ではない。
約6万5,000枚の大腸ポリープ画像を学習用データとし、診断支援システムを構築
研究グループは、内視鏡医の技能や機械の性能によらず検査の精度と効率化の改善を図るため、従来の内視鏡システムにも対応が可能な人工知能を用いた大腸内視鏡検査支援システムの開発に取り組んできた。
同大附属病院で行われた大腸内視鏡検査で収集した約6万5,000枚の大腸ポリープの画像データを学習用データとし、深層学習により大腸ポリープを自動で認識するコンピュータ診断支援システムを構築した。
病変検出の陽性的中率91.2%、臨床試験で見逃し率「未使用36.7%・使用13.8%」
2018年5月時点に行なった精度の検証では、病変検出の感度および陽性的中率はそれぞれ98.0%と91.2%、通常内視鏡では発見が困難とされる平坦かつ微小病変に対象を限定した場合でも、感度および陽性的中率は各々96.7%、93.7%と、良好な成績だったという。
また、2019年から2020年にかけて国内4施設(国立がん研究センター中央病院、東京慈恵会医科大学附属病院、同大学附属第三病院、松島クリニック)で多施設共同無作為化比較試験(特定臨床研究 jRCTs032190061、略称:CAD-COLON study)を実施し、実臨床においても腺腫の見逃し率が同システムを使用しない場合、36.7%と比べて使用する場合は13.8%に改善を認め、同成果の論文が2021年7月に「Journal of Gastroenterology」に掲載された。
単体性能試験で合格基準に達し、その後承認取得
今回は初版として、オリンパス社製内視鏡の対応システムのソフトウェアについて単体性能試験を同大で実施した結果、感度98.1%、特異度95.0%が得られ合格基準に達したため、薬事承認申請を行った。
そして、2022年11月14日に医用画像解析ソフトウェア「EIRL Colon Polyp(一般的名称:病変検出用内視鏡画像診断支援プログラム、承認番号:30400BZX00259000)」の承認を取得した。
腫瘍の組織診断予測までリアルタイムに行う人工知能支援システムも構築、大腸がん発生予防に期待
今回の薬事承認の取得は、臨床の実用化に向けた大きな進展と言える。すでに同大附属病院の内視鏡室に同システムが設置され、臨床の現場での評価に基づき、改良に取り組んでいるという。
「診断支援のみならず、腫瘍と非腫瘍の組織診断の予測までリアルタイムに行う人工知能支援システムや、富士フイルム社製内視鏡対応のシステムを構築しており、今後も更新していく予定。より多くの人たちに幅広く質の高い大腸内視鏡検査を提供し、大腸がんの発生を防ぐことを期待している」と、研究グループは述べている。
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