医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 血液検査のみを用いた「不顕性肝性脳症」のリスク評価法を確立-岐阜大

血液検査のみを用いた「不顕性肝性脳症」のリスク評価法を確立-岐阜大

読了時間:約 2分56秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2022年12月02日 AM11:25

血液性化学検査のみから確立した「sCHE score」、/OHEリスク評価に有用か検証

岐阜大学は12月1日、肝硬変患者に合併する不顕性肝性脳症(covert hepatic encephalopathy; CHE)のスクリーニングおよび顕性肝性脳症(Overt hepatic encephalopathy; )のリスク評価に有用な、簡易なスコアリングシステムを確立したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科消化器内科学分野 清水雅仁教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「PLOS ONE」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

肝性脳症は肝硬変患者に合併する神経機能異常であり、CHEは肝性脳症の明らかな症状がない場合でも、神経生理学的検査を実施すると異常を認める肝性脳症の初期病態だ。CHE は、肝硬変患者の転倒・骨折、交通事故、生活の質、予後と関連するため、欧州肝臓学会は肝硬変患者全例に、不顕性肝性脳症の検査をすることを提言している。しかし、検査の実施には熟練した検査者、特殊な検査機器、検査時間、コストが必要であり、肝硬変患者全例で検査することは現実的ではない。このため、肝硬変患者におけるCHEのリスク評価のための簡易な診療指針の策定が急務となっている。

研究グループは今回、血液性化学検査のみから確立した「Simple covert hepatic score(sCHE score)」が、CHEのスクリーニングおよびOHEのリスク評価に有用かについて検討した。

sCHE score 1点以上の患者は0点の患者と比較して、CHE合併率「高」

研究では、神経生理学的検査を行った肝硬変患者381人を対象とし、CHEおよびOHE発症に関連する因子に関して検討した。神経生理学的検査により79例(21%)がCHEに関連する因子の検討では、血清アルブミン値とアンモニア値がそれぞれ独立したCHEに関連する因子だった。この事実に基づき、低アルブミン血症(≤3.5g/dL)、高アンモニア血症(≥80μg/dL)をそれぞれ1点として、血液性化学検査のみから判定するシンプルなCHEのスコアリングシステム(Simple covert hepatic score; sCHE score)を考案した。

実際に、sCHE score1点以上の肝硬変患者では、CHE合併率は27%であり、sCHE score 0点の患者のCHE合併率14%と比較して、約1.8倍CHEのリスクが高い結果となった。

sCHE score 1点以上は0点と比較してOHE発症リスク2.7倍、CHEは2.2倍

OHE発症に関連する因子の検討では、血清アルブミン値とアンモニア値はそれぞれ独立したOHEの予測因子であり、これらにより構成されるsCHE scoreもOHE発症予測に有用であることを明らかとした。実際に、sCHE score1点以上の肝硬変患者は、sCHE score 0点の患者と比較して約2.7倍OHE発症のリスクが高い結果となった。CHEに関しても同様に、OHEの予測に有用であり、CHEを有する肝硬変患者のOHEリスクはCHEのない患者と比較して約2.2倍だった。

sCHE scoreは、CHEのスクリーニングおよびOHEのリスク評価に有用

sCHEスコアは陰性的中立が86%と高いため、sCHE score 0点の患者は低リスク群として神経生理学的検査は実施せず、sCHE scoreで1点以上の肝硬変患者に神経生理学的検査を実施することが現実的な診療指針と考えた。そこで、sCHE score 0点のOHE低リスク群、sCHE score 1点以上かつCHEのない中リスク群、sCHE score 1点以上かつCHEのある高リスク群に群分けすると、5年間のOHE累積発生率は低リスク群、中リスク群、高リスク群でそれぞれ9%、23%、43%だった。

以上のことから、血液生化学検査のみで評価するsCHE scoreはCHEのスクリーニングおよびOHEのリスク評価に有用であり、肝性脳症のリスク評価における現実的な診療指針策定に寄与することが期待される。

CHEの早期診断が患者の予後改善やOHEの予防などにつながることに期待

今回の研究により、血液検査のみから評価するsCHE scoreがCHEのスクリーニングおよびOHEのリスク評価に有用であることが明らかにされた。

「この知見を取り入れたガイドライン等の診療指針を策定することにより、CHEの検査を行うべき患者群を正確に見極め、CHEの早期診断と積極的な治療介入を行うことで、CHEを有する患者の転倒・骨折・交通事故・OHEを予防、生活の質および予後改善につながることが期待される」と、研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 加齢による認知機能低下、ミノサイクリンで予防の可能性-都医学研ほか
  • EBV感染、CAEBV対象ルキソリチニブの医師主導治験で22%完全奏効-科学大ほか
  • 若年層のHTLV-1性感染症例、短い潜伏期間で眼疾患発症-科学大ほか
  • ロボット手術による直腸がん手術、射精・性交機能に対し有益と判明-横浜市大
  • 前立腺がん、治療決定時SDMが患者の治療後「後悔」低減に関連-北大