医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > CAR-T細胞療法、アフェレーシス時末梢血リンパ球数が治療効果と相関-京大

CAR-T細胞療法、アフェレーシス時末梢血リンパ球数が治療効果と相関-京大

読了時間:約 3分7秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2022年11月25日 AM11:27

CAR-T細胞療法の効果は、疾患背景だけでなくCAR-T細胞の「品質」にも影響される

京都大学は11月22日、キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T細胞)療法としてチサゲンレクルユーセル(tisa-cel)を投与された悪性リンパ腫()44症例を対象に、CAR-T細胞の「原料の質」の評価基準のひとつである「アフェレーシス時の末梢血リンパ球数」に着目し、CAR-T細胞投与後の体内での増殖と、治療効果への影響を解析した結果、アフェレーシス時のCD3陽性T細胞数高値の群は、低値の群と比較して、CAR-T細胞投与後7日目時点での細胞の増殖がより顕著で、治療効果も良好であることが示されたと発表した。この研究は、同大学医学部附属病院血液内科の和田典也医員(現 医学研究科・大学院生)、検査部・細胞療法センターの城友泰助教、新井康之同助教(病院講師)、大学院医学研究科の髙折晃史教授、長尾美紀教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

CAR-T 細胞療法は、従来の治療では効果が乏しい血液がんに対しても治療効果をもたらしうる治療として、近年急速に発展している。CAR-T 細胞療法では、T細胞と呼ばれるリンパ球を患者さんからアフェレーシスによって採取し、それを原料に CAR-T 細胞を製造して患者に投与する。CAR-T 細胞療法の治療効果は「疾患そのものの性質」と「CAR-T 細胞の品質」双方の影響を受けるため、投与前あるいは投与後早期の時点では効果の予測が難しいのが現状である。特に CAR-T 細胞の品質(投与後に体内で増えて、血液がん細胞を攻撃できるかどうか)を予見する指標はほとんどわかっていない。

また、CAR-T細胞療法により、再発・難治性のDLBCL症例の一部では予後は大きく改善したが、CAR-T細胞療法にも反応を認めなかった場合の予後は極めて不良である。CAR-T細胞療法の効果を最大限引き出すためには、例えばアフェレーシス時点といった早い段階で治療効果を予測することが重要である。近年、治療効果を予測する因子として、高腫瘍量やTP53変異などの疾患側での背景因子が報告されているが、CAR-T細胞自身の「品質」が与える影響の報告はほとんどなかった。

アフェレーシス時末梢CD3陽性T細胞が多いと、投与後の末梢血リンパ球増加・治療効果良好

研究グループは、同大医学部附属病院・血液内科において、CAR-T療法としてtisa-celを投与された、DLBCL44症例を対象に、アフェレーシス時の末梢血CD3陽性T細胞数に着目し、CART細胞投与後の末梢血リンパ球増加および予後への影響を解析した。その結果、1)アフェレーシス時のCD3陽性T細胞数が多い群(CD3HIGH群)では少ない群(CD3LOW群)に比して、CAR-T投与後7日目でのリンパ球数が多いこと、2)CD3HIGH群では無増悪生存割合と全生存割合が良好であることが示された。まず、CD3HIGH群ではCD3LOW群よりもCAR-T投与後7日目での末梢血リンパ球数が有意に多く(860vs. 420/μL;p=0.021)、投与後の良好なCAR-T細胞の増殖が示唆された。

続いてアフェレーシス時点でのデータと予後を比較すると、CD3HIGH群はCD3LOW群よりも有意に無増悪生存割合(68.3%vs. 17.3%;p=0.042)と全生存割合(84.2%vs. 54.9%;p=0.043)が良好であることが示された。なお、今回の研究においてはCD3陽性T細胞のカットオフ値は553/μLに設定している(1年無増悪生存に対するROC曲線を用いて算出)。今回の研究では、DLBCLにおけるCAR-T細胞療法において、アフェレーシス時の末梢血CD3陽性T細胞数が、投与後の体内でのCAR-T細胞増殖と治療効果を予測するバイオマーカーとなることがわかった。加えて、強力な救済化学療法や化学療法の反復投与を行う前に先制的にアフェレーシスを行うなどのCAR-T細胞の「品質」を担保する治療選択が有用な可能性が示唆された。

バイオマーカーによりCAR-T細胞療法の効果を最大限引き出すことが可能に

今回の研究で得られた知見はすでに臨床現場に還元され、CAR-T細胞療法の治療効果が十分に望めないことが予想されるときには、早いタイミングで次治療の検討を開始している。また、リンパ腫の性質によって早い段階から化学療法抵抗性になることが予測される場合は、早期にアフェレーシスを行う「先制アフェレーシス」を積極的に行っている。これにより、化学療法の影響が及ぶ前に質の高いT細胞を確保し、CAR-T細胞の「品質」を維持し、かつ速やかなCAR-T療法への移行が可能となる。このように、アフェレーシス時の末梢血CD3陽性T細胞数をバイオマーカーとして用いることで、CAR-T細胞療法の効果を最大限引き出し、この疾患全体の治療成績向上につながることが期待される。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 加齢による認知機能低下、ミノサイクリンで予防の可能性-都医学研ほか
  • EBV感染、CAEBV対象ルキソリチニブの医師主導治験で22%完全奏効-科学大ほか
  • 若年層のHTLV-1性感染症例、短い潜伏期間で眼疾患発症-科学大ほか
  • ロボット手術による直腸がん手術、射精・性交機能に対し有益と判明-横浜市大
  • 前立腺がん、治療決定時SDMが患者の治療後「後悔」低減に関連-北大