薬剤性間質性肺炎の患者血清対象に約1,300種のタンパク質解析
信州大学は11月15日、びまん性肺胞傷害型間質性肺炎において、タンパク質ストラテフィン(SFN)が診断に利用できる新しいバイオマーカーとなりうることを発見したと発表した。この研究は、同大医学部内科学第一教室の花岡正幸教授、同大医学部附属病院医療情報部の牛木淳人准教授ら、国立医薬品食品衛生研究所、木原記念横浜生命科学振興財団、日本医科大学、千葉大学、広島大学、国際医療福祉大学、アステラス製薬、第一三共の研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Communications」に掲載されている。
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間質性肺炎にはさまざまな病型があり、中でも、びまん性肺胞傷害(DAD)は予後不良であり、時に死に至ることから、その早期発見と早期治療が重要だ。DADは、新型コロナウイルス感染症の重症例や急性呼吸促迫症候群(ARDS)にも見られる重篤な病型でもある。間質性肺炎の診断には胸部CT(コンピューター断層撮影)など複数の検査が用いられるが、確定診断には外科的肺生検が必要とされている。しかし、DAD型は重症例が多いため、外科的肺生検はリスクが高く現実的ではない。よって、CT所見などによる臨床的な診断が一般的だが、DAD型か否かの判別は難しいという問題がある。また、現在臨床で用いられているSP-D(surfactant protein-D)やKL-6(Krebs von den Lungen-6)は間質性肺炎全般を検出するバイオマーカーであり、DADを特異的に診断できる信頼性の高いバイオマーカーは存在していないことから、新しいバイオマーカーの発見が必要とされている。
今回の研究では、薬剤性間質性肺炎の患者血清を対象に、1,300種程度のタンパク質を一度に解析する技術であるSOMAscanプロテオミクス手法を用いた。その結果、DAD型薬剤性間質性肺炎のバイオマーカー候補としてSFNが発見された。
DAD病型有する患者でSFN特異的上昇、他の肺疾患患者では概ね変動なし
具体的には、患者群40例および健康成人群24例を比較して、患者群の発症期に変動し、回復時には健康成人群のレベルまで戻る複数の候補を絞った。次に、別の患者群44例、健康成人群53例、耐性群31例を用いた検証を行い、SFNの臨床的有用性が確認された。薬剤性間質性肺炎患者の中で、SFNはDAD病型を有する患者で特異的に上昇しており、他の間質性肺炎病型や、感染性肺炎、膠原病肺などの他の肺疾患患者では概ね変動しなかった。DAD病型と他の薬剤性間質性肺炎の病型との鑑別や、他の肺疾患との識別において、SFNは、既存のバイオマーカーにはない優れた特徴を有することが認められた。医薬品が原因の間質性肺炎以外に、SFNは特発性のDAD患者の血清中でも上昇し、DAD患者の肺組織や気管支肺胞洗浄液中でも増加していることが確認された。
また、培養肺胞上皮細胞を用いた解析では、ある転写因子(p53)依存的なアポトーシス(プログラム化された細胞死)を介してSFNが細胞外に放出される可能性が示唆された。以上の結果より、血清SFNはDAD型の間質性肺炎診断のための有望なバイオマーカーになりうると結論づけられた。
より低侵襲な検査での判別にも期待
間質性肺炎を疑う症状を示す患者に対して血清SFNを測定することで、DAD型の間質性肺炎か否かの診断に有用な情報が得られ、適切な治療の選択と患者の管理が可能となり、DADによる死亡や後遺症の回避に役立つことが期待される。また、SFNが診断薬として開発されれば、気管支肺胞洗浄検査や生検検査など、患者の負担になる検査を減らすことができると考えられ、呼吸器領域の診療を大きく変える可能性がある、と研究グループは述べている。
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・信州大学 プレスリリース