IL-15産生細胞、iNKT細胞の不均一性や機能をどのように制御?
京都大学は10月24日、抗腫瘍免疫と抗ウイルス免疫において重要な役割を担う新規の循環型インバリアントナチュラルキラーT(iNKT)細胞を発見したと発表した。この研究は、同大医生物学研究所の崔广為助教と生田宏一同教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Science Immunology」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
iNKT細胞は、免疫応答の初期に糖脂質抗原を認識し、サイトカインや細胞傷害分子を迅速かつ大量に産生することで、自然免疫と獲得免疫をつなぐ役割を果たしている。iNKT細胞は組織常在性リンパ球として知られ、がんや感染症、慢性炎症、自己免疫疾患といったさまざまな疾患に関係している。そのため、iNKT細胞は免疫細胞治療における有用な細胞の一つとして注目されている。
一方、インターロイキン15(IL-15)は、iNKT細胞の分化、維持、および応答に重要なサイトカインだ。研究グループはこれまでに、さまざまな組織におけるIL-15産生細胞を同定したが、各IL-15産生細胞がどのようにiNKT細胞の不均一性や機能を制御しているかは不明だった。
胸腺上皮細胞産生IL-15、前駆細胞から循環型iNKT細胞への分化に必須
今回の研究ではまず、NK細胞受容体CD244(2B4)とケモカイン受容体CXCR6を用い、マウス胸腺内iNKT細胞が新たにCD244+CXCR6+iNKT細胞(循環型iNKT細胞、C2 iNKT細胞)、CD244−CXCR6+iNKT細胞(組織常在型iNKT細胞、C1 iNKT細胞)およびCD244−CXCR6−iNKT 細胞(前駆細胞、C0 iNKT細胞)に分画できることを発見。胸腺上皮細胞特異的なIL-15欠損マウスにおいて循環型iNKT細胞がほぼ消失していたことから、胸腺上皮細胞が産生するIL-15が前駆細胞から循環型iNKT細胞への分化に必須であることが明らかになった。
循環型iNKT細胞はサイトカインや細胞傷害分子を強く発現、NK細胞に近い特徴
網羅的遺伝子発現解析などにより、これまで知られていた組織常在型iNKT細胞はT細胞に近い性質を持っていたのに対し、循環型iNKT細胞はインターフェロンγなどのサイトカインやグランザイムなどの細胞傷害分子を強く発現し、NK細胞に近い特徴を示した。また、胸腺において、循環型iNKT細胞が加齢や腸内細菌の影響により変動することや、免疫寛容に関係する転写因子AIREの発現調節に関わっていることがわかった。
血流で全身移動し腫瘍とウイルス感染を制御の循環型iNKT細胞、ヒトでも存在を確認
末梢組織において、並体結合(パラビオーシス、parabiosis)実験により、循環型iNKT細胞は従来知られていた組織常在性のiNKT細胞と異なり、血流によって全身を移動する新たなiNKT細胞であることを見出した。機能面では、メラノーマ細胞の肺転移やインフルエンザウイルスの気道感染などの実験により、循環型iNKT細胞が抗腫瘍免疫と抗ウイルス感染免疫において重要な役割を果たしていることを明らかにした。さらに、ヒト末梢血中においてもマウスと同様な細胞傷害活性の高いCD244+CXCR6+iNKT細胞が存在することを発見。今後は、ヒトにおける循環型iNKT細胞の詳細な機能解析が期待される。
以上の結果から、胸腺のIL-15に強く依存する新規の循環型iNKT細胞の存在を発見し、抗腫瘍免疫と抗ウイルス免疫に重要であることを明らかにしたとしている。
がんや感染症、iNKT細胞標的の免疫細胞療法確立に期待
今回の研究では、新規の循環型iNKT細胞の分化経路、細胞動態、免疫機能などを明らかにしたことで、iNKT細胞の不均一性に新しい視点をもたらした。循環型と組織常在型の2種類の集団が協働することで、iNKT細胞がより効率的な免疫応答を引き起こす可能性があり、今後、より詳細な機能解析が進むことが期待される。さらに、がんや感染症治療において、iNKT細胞を標的とする効果が高い免疫細胞療法の確立につながることが期待される、と研究グループは述べている。
▼関連リンク
・京都大学 最新の研究成果を知る