SBMAの神経症状を正確に感度良く評価する指標はまだ整備されていない
名古屋大学は10月21日、神経難病の球脊髄性筋萎縮症(SBMA)について、その重症度を正確に測る新たな評価指標を開発したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科神経内科学の勝野雅央教授、稲垣智則客員研究者(筆頭研究者)、同臨床研究教育学の橋詰淳講師らの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」にオンライン掲載されている。
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SBMAは、徐々に筋力低下や嚥下障害が進行する神経難病である。通常30歳から60歳の間に四肢の筋力低下、筋萎縮、飲み込みの障害などで発症し徐々に進行していく。SBMAは治療法が十分に確立した病気とは言えないが、その病気の原因解明が分子レベルで急速に進んでおり、疾患修飾薬の開発が活発に行われるようになっている。新たな治療薬で期待される効果は、病気の進行を遅らせることにあるため、特にSBMAのように比較的ゆっくり進行する病気では、小さな症状変化も感度良く検出でき、しかも使いやすい評価指標の存在が必須であると考えられている。今まで、球脊髄性筋萎縮症機能評価尺度(SBMAFRS)や改訂版筋萎縮性側索硬化症機能評価尺度(ALSFRS-R)といった評価指標が、SBMAの臨床試験では利用されてきたが、これらの評価指標の感度や信頼性には限界があり不十分であると考えられている。一方で、握力や6分間歩行テストなどの客観的な筋力測定は、客観性・定量性が高いという利点があるが、特定の身体部位の身体機能のみしか評価することができないという欠点もある。今後もさらに盛んになるであろう治療開発のための臨床試験で利用する評価指標は、これらの欠点を克服したものである必要があると考えられる。
複合的評価指標であるSBMAFCを作成、既存の評価指標とも良好な相関関係
今回の研究ではまず、SBMAの評価に必要な定量的な評価指標を選定することから開始した。その結果、SBMAの重症度を測定するためには、しゃべりや飲み込みの症状、上肢の症状、体幹の症状、下肢の症状、呼吸の症状を組み合わせて評価することが必要であり、それぞれの症状の測定としては、舌圧、握力、ピークフロー、4.6m歩行時間、努力肺活量を用いることがよいことがわかった。SBMAの「複合的評価指標」であるSBMAFCを作成するとき、舌圧や握力などを計測して得られた数値を単純に足し算するのは不適切であるため、健康男性成人36人のデータを利用して、Zスコアという方法を用いて標準化した上で足し算することとした。その結果、SBMAFCは以下の式で表すとよいことがわかった。
SBMAFC=(舌圧-41.6)/7.84+(握力-45.0)/6.4+(%PEF-116.4)/22.4+(4.6m歩行テスト-7.7)/2.0+(%FVC-112.0)/11.8
97人のSBMA患者に対して各患者のSBMAFCの値を算出したところ、SBMAFRSやALSFRS-Rの値と良好な相関関係があり、またSBMAFCの値は、SBMAFCを構成する各評価指標とも良好な相関関係があることがわかった。
症状がほとんどないと考えられる早期SBMA患者の微細な症状も測定可能
今回、研究対象としたSBMA患者97人のうち8人が、症状がほとんどないと考えられる早期SBMA患者だった。それら早期SBMA患者と健康男性成人の両方に対して、SBMAFC、SBMAFRS、ALSFRS-Rの3つの指標を使い評価を行った時、早期SBMA患者の微細な症状を検出できるのはどの指標であるのかを検討した。その結果、SBMAFCで評価した場合、早期SBMA患者と健康男性成人の間に最も明らかな差が出たのはSBMAFCだった。これらの結果は、SBMAFCが早期SBMA患者の微妙な症状を「測る」ために有力なツールであることを示している。
今後の臨床研究における評価指標にSBMAFCも加え、有用性を確認していく
研究の結果から、SBMAの各症状に対する評価を組み合わせた複合指標SBMAFCを開発することができ、また、SBMAFCは既に存在する評価指標に比べて、感度が良い検査手法であり、治療開発を含め広く応用できる可能性があることが示唆された。評価指標は、多くの臨床研究において利用され、その有用性が確認されることによって、その意義が再確認される。「名古屋大学大学院医学系研究科神経内科学は、国内におけるSBMA研究の拠点として、多くの臨床研究を実施している。これらの臨床研究における評価指標にSBMAFCも加え、今後も多くの有益な知見を見出していきたいと考えている」と、研究グループは述べている。
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