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3つのゲノム創薬手法を組み合わせ、網羅的に治療薬候補を探索できると実証-阪大ほか

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2022年10月18日 AM11:24

注目される複数人種集団のゲノムデータに基づく創薬、具体的な方法論は未確立

大阪大学は10月13日、国際バイオバンク連携を通じて、ゲノムワイド関連解析に基づき3種類のゲノム創薬手法を組み合わせることで、網羅的に治療薬候補を探索することが可能な手法を提案し、その結果13疾患に対して合計266個の治療薬候補を含む網羅的な治療薬候補リストを作成したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の難波真一大学院生、日本たばこ産業株式会社医薬総合研究所の小沼貴裕研究員、大阪大学大学院医学系研究科の岡田随象教授(兼 理化学研究所生命医科学研究センターシステム遺伝学チーム チームリーダー、東京大学大学院医学系研究科遺伝情報学教授)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cell Genomics」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

新しい治療標的を効率的に探索することは、薬剤開発を加速させるために不可欠である。新しい治療薬を開発するために莫大な研究開発が行われているにもかかわらず、創薬にかかる時間やコストは年々増加し、成功率は下がってきている。創薬を加速させる有望な解決策として、ゲノムワイド関連解析に基づいて治療標的を探索するゲノム創薬が注目されているが、直接的に治療薬候補を見つけ出す遺伝統計解析ツールは数少なく、どのようにゲノム創薬を行えばいいかという方法論は確立されていない。

近年、複数人種集団を対象にしたゲノムワイド関連解析が盛んに行われるようになっており、疾患の鍵となる生物学的知見が明らかになってきている。複数人種集団のゲノムワイド関連解析からゲノム創薬を行うことで、より有効な治療薬候補を探索できると考えられるが、これまでのゲノム創薬は欧米人に対するゲノムワイド関連解析に基づいており、複数人種集団のゲノムワイド関連解析に基づくゲノム創薬はほとんど行われた例がない。人種集団間でアレル頻度や連鎖不平衡といった遺伝的背景が異なるため、複数人種集団のゲノムワイド関連解析に基づいてゲノム創薬を行うためには単一の人種集団に対するゲノム創薬手法をそのまま適用することはできず、専用のフレームワークが必要である。

国際コンソーシアム最大約180万人のゲノムデータによる複数人種集団でのゲノムワイド関連解析

研究グループは、世界各国のバイオバンクが参加する国際コンソーシアム(Global Biobank Meta-analysis Initiative:) の一環として、ゲノム創薬の実践的ガイドラインを提案した。GBMIでは最大約180万人のゲノムデータを用いて複数人種集団に対するゲノムワイド関連解析が行われ、疾患を対象とした複数人種集団ゲノムワイド関連解析の代表例と考えられる。

3つのゲノム創薬手法からなるフレームワークを提案、13疾患で有望な治療薬候補を数多く取得

研究グループは多人種に対するゲノム創薬のために、「疾患リスク遺伝子のエンリッチメント解析」「メンデルランダム化解析」「遺伝子発現量制御の相関解析」という3つのゲノム創薬手法からなるフレームワークを提案した。第一の疾患リスク遺伝子のエンリッチメント解析では、疾患リスク遺伝子を標的とする薬剤を、疾患リスク遺伝子が属する薬剤カテゴリーに基づいて探索する。第二のメンデルランダム化解析では、疾患の原因となるタンパク質を同定し、同定されたタンパク質を標的とする薬剤を探索する。第三の遺伝子発現量制御の相関解析では、疾患ゲノムによる遺伝子発現量制御を推定し、逆向きに遺伝子発現量を制御する化合物を探索する。研究グループは提案した創薬フレームワークをGBMIの対象となった13疾患に対して適用した。GBMIの対象13疾患には罹患率の高い疾患から比較的まれな疾患までが含まれており、具体的には、喘息、原発性開放隅角緑内障、痛風、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、静脈血栓塞栓症、甲状腺がん、腹部大動脈瘤、心不全、特発性肺線維症、脳梗塞、子宮体がん、急性虫垂炎、肥大型心筋症が含まれる。3つのゲノム創薬手法によって、13疾患全体でそれぞれ154、83、31の治療薬候補が得られた。

提案した手法により有望な治療薬候補の網羅的な探索が可能

個々のゲノム創薬手法によって得られた治療薬候補や治療標的遺伝子の多くは既存の治療薬と同じ薬剤カテゴリーに属しており、個々のゲノム創薬手法が適切な治療薬候補を探索できていることが確認された。得られた治療薬候補の中には、疾患の治療に役立つことを支持する実験データなどが報告されている薬剤が数多く存在し、とくに有望な治療薬候補であると考えられた。また、単一人種集団のゲノムワイド関連解析に基づいてゲノム創薬を行った場合と比べたところ、複数人種集団のゲノムワイド関連解析を用いたことで治療薬候補をより多く得られたことがわかった。

13疾患の中で比較的患者数の多い喘息、痛風、COPD、静脈血栓塞栓症については、複数のゲノム創薬手法によって治療薬候補を探索することで、網羅的に治療薬候補をリストアップすることに成功した。特に、静脈血栓塞栓症では治療薬候補のほとんどが凝固系を標的としており、凝固系を標的とする既存薬剤を静脈血栓塞栓症に転用することが有効であると考えられた。また、治療標的遺伝子がどのようなパスウェイに多く属しているのかを調べたところ、163個のパスウェイが検出された。中でも20個のパスウェイはゲノム創薬手法を1つだけ用いた場合では検出できず、3つのゲノム創薬手法を統合することではじめて検出された。代表的な例として、インターロイキン4およびインターロイキン13シグナル伝達経路には痛風の治療標的遺伝子が5つ属していたが、これらの遺伝子は3つのゲノム創薬手法によって相補的に検出されており、複数のゲノム創薬手法を用いることが網羅的な治療薬候補探索に重要であると示された。

複数人種集団対象のゲノム解析に基づく、幅広い疾患に対する治療薬探索に期待

今回の研究によって、複数のゲノム創薬手法を用いたフレームワークが提案され、網羅的に治療薬探索を行うことができることが実証された。また、複数人種集団を対象にしたゲノムワイド関連解析に基づいたゲノム創薬が有効であることが示された。「研究で同定された治療薬候補については動物実験などのさらなる検証を進めることで、臨床への応用が可能であると考えられる。また、複数人種集団を対象にしたゲノムワイド関連解析は今後盛んに行われていくと考えられ、幅広い疾患に対してゲノム創薬による治療薬探索が行われていくと期待される」と、研究グループは述べている。

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