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精神障害を持つ人の就労状況、「当事者の希望とマッチ」で就労継続が長期に-NCNP

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2022年10月11日 AM10:33

重症度や障害の程度に関係なく、利用者の希望やニーズに基づいた就労支援「

国立精神・神経医療研究センターは10月7日、個別就労支援サービスを利用した精神障害を持つ人の就労状況を調査し、希望の条件により多くマッチする仕事に就いた場合、就労がより長く続くことがわかったと発表した。この研究は、同センター精神保健研究所地域精神保健・法制度研究部の五十嵐百花研究員らの研究グループによるもの。研究成果は、「Psychiatric Rehabilitation Journal」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

精神障害を持つ人にとって就労のハードルは高く、仕事に就きたいと思いながらも実現できていない人が多いことが知られている。しかし、働くことは生活の質の向上や症状の改善につながるといわれており、その人らしい生き生きとした生活を取り戻すための1つの大切な要素と考えられる。

、あるいはIPS(Individual Placement and Support)とは、精神疾患の重症度や障害の程度に関係なく、利用者の希望やニーズに基づいたサービスを行うことを支援哲学として米国で開発された、訪問・同行(アウトリーチ)型の個別就労支援だ。重い精神障害を持つ人の就職に効果があることが多くの研究で認められており、世界で広く実践されている。日本でも、現在20以上の事業所(就労移行支援事業所や精神科デイケアなど)によって援助付き雇用プログラム(IPS)が提供されている。

「就労が継続しない」課題解決に向け、援助付き雇用プログラム利用者を調査

援助付き雇用プログラム(IPS)は就職を効果的に支援できる一方、就労の継続が新たな課題となっている。仕事に就いた後でさまざまな課題に直面し、1年以内に辞めてしまう人も多くいる。どうすれば、その人に合った仕事を見つけ、長く続けることができるのかを明らかにすることが重要となる。

そこで研究グループは、援助付き雇用プログラム(IPS)利用者から聞き取った仕事の希望と、実際に就職した仕事の条件の合致に着目。職種、月収、週当たり労働時間、通勤時間、障害開示の5つの項目について、より希望とマッチした仕事はより長く続くという仮説を立て、援助付き雇用プログラム(IPS)利用者の就労状況のデータを分析する研究を計画した。いくつかの先行研究では、職種のみのマッチと就労期間の関連を調査しており、結論は一貫していなかった。

職種・月収・障害開示など5項目の希望が、実際の就職とマッチしているか

調査対象は、援助付き雇用プログラム(IPS)を実施する16の事業所において、2017年1月1日~6月30日の間にサービスの利用を開始した、精神疾患の診断を持つ202人。2年間の追跡調査を実施した。利用開始時に、職種、月収、週当たり労働時間、通勤時間、障害開示の5つの項目について、支援スタッフが利用者の希望を聞き取った。すべての項目に回答し、かつ2年間の間に1回以上就職した人は112人だった。離職と再就職によって、1人につき複数回の就職があった場合、別々に分析対象としたため、合計で130回の就職を分析した。それぞれの就職について、実際に希望とマッチしていたかどうか、研究者が決めたマッチの条件によって判定した。また、就職した日と辞めた日から就労週数を計算し、希望マッチとの関連を統計的に分析した。

マッチ度1の就労期間は平均22.8週、マッチ度4の就労期間は平均57.3週

結果は、5項目それぞれのマッチは就労期間と関連しなかったが、5項目のうち何項目がマッチしたかという、総合的な希望マッチ度(1から5)は就労期間と有意に関連していた。マッチ度3の就労期間(平均49.2週)と、マッチ度4の就労期間(平均57.3週)は、それぞれマッチ度1の就労期間(平均22.8週)よりも有意に長いことが示された。また、マッチ度の低い群(1-2)と高い群(3-5)の2群に分けて比較すると、マッチ度の高い群の就労期間が有意に長いことが示された。

「当事者中心の支援」を後押しする新たな科学的根拠を提供

「より希望に近い仕事に就けば、長続きする」という結果は、当たり前に感じられるかもしれない。しかし、精神障害を持つ人の就労支援の歴史において、個々の当事者の希望が重視されてきたとは必ずしもいえない現実がある。障害を持つ人を集団で雇用する保護的雇用では、1人1人に合わせた多様な仕事の選択肢を用意することは困難だ。また、仕事に就く前に基礎的な能力を高めることが必要だと考えられ、簡単な仕事から段階を踏んでいくような集団型支援や、全員が同じ支援フローに沿って進むようなプログラムが主流だった。

そのような中、個人の希望やニーズに合わせた柔軟で包括的な支援モデルとして誕生し、重い精神障害を持つ人でも民間のさまざまな企業で働けることを実証したのが、援助付き雇用プログラム(IPS)だ。この研究は、当事者の希望を優先する支援が効果的であるという考えに、新しい側面から科学的根拠を提供することで、当事者中心の支援を後押しするものと考えられる。より具体的な示唆としては、援助付き雇用プログラム(IPS)を実践する支援者に対し、研究で用いた5項目を含む複数の面から利用者の希望を聞き取ること、そして希望に合致するように就職活動支援を行うことや、その事後評価が推奨される。

ただし、研究結果は、援助付き雇用プログラム(IPS)を実施している、あるいは志向している事業所を対象にした調査であるため、その他の就労支援を提供する事業所に、この研究の知見が当てはまるわけでない点に留意が必要だ。

研究グループは、「今後の研究では、希望マッチの条件が本当に当事者の感覚と合っているかのほか、研究結果が別の国や地域でも再現されるかを確かめることが求められる。また、希望マッチと仕事の満足度の関係を明らかにすることも重要と考えられる」と、述べている。

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