医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 胎児期の鉛ばく露と3歳までの神経発達の関連を解析、エコチル調査データより-九大ほか

胎児期の鉛ばく露と3歳までの神経発達の関連を解析、エコチル調査データより-九大ほか

読了時間:約 3分
このエントリーをはてなブックマークに追加
2022年10月04日 AM10:12

出生前鉛濃度と3歳までの神経発達に関連は?約10万組の妊婦+子どものデータで

九州大学は9月30日、エコチル調査の約10万組の親子のデータを使用して、胎児期の鉛へのばく露と3歳までの神経発達の関連について解析した結果を発表した。この研究は、同大小児科エコチル調査福岡ユニットセンターの井上普介助教、佐賀大学小児科・九州大学エコチル調査サブユニットセンターの實藤雅文准教授ら、国立環境研究所の研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」に掲載されている。

子どもの健康と環境に関する全国調査(以下、)は、胎児期から小児期にかけての化学物質ばく露が子どもの健康に与える影響を明らかにするために、平成22(2010)年度から全国で10万組の親子を対象として環境省が開始した、大規模かつ長期にわたる出生コホート調査。臍帯血、血液、尿、母乳、乳歯等の生体試料を採取し保存・分析するとともに、追跡調査を行い、子どもの健康と化学物質等の環境要因との関係を明らかにしている。エコチル調査は、国立環境研究所に研究の中心機関としてコアセンターを、国立成育医療研究センターに医学的支援のためのメディカルサポートセンターを、また、日本の各地域で調査を行うために公募で選定された15の大学に地域の調査の拠点となるユニットセンターを設置し、環境省と共に各関係機関が協働して実施している。

鉛は、神経毒性のある重金属で、子どもの神経認知発達に悪影響を及ぼすことが知られている。しかし、どのくらいの濃度であれば許容できるのかについて定められた基準はない。出生後の鉛へのばく露が、神経認知機能に悪影響を及ぼすことは多数報告されているが、出生前のばく露の影響については見解が定まっていない。日本では1986年の有鉛ガソリンの禁止により環境中の鉛が激減した結果、妊婦の血中鉛濃度も減少しているが、そのような低濃度のばく露が胎児に与える影響についてもよくわかっていない。

そこで今回の研究では、出生前の鉛濃度と3歳までの神経発達に関連があるかどうかを調査した。平成30年(2018年)3月に確定した約10万組の妊婦と出生した子どものデータを使用。解析対象は、双子・三つ子ではない満期産で、先天形態異常や重篤な疾患を持たず、かつ性別・出生体重・母体血または臍帯血中の鉛濃度・神経発達に関するデータが揃っている8万759人の子どもとした。アウトカムとしての神経発達は、発達に関する質問票(ASQ-3日本語版)を用いて評価。エコチル調査のデータを基に独自に設定した基準値を使用した場合に、1歳で18.0%、2歳で16.2%、3歳で17.2%の子どもが神経発達遅延の疑い(神経発達遅延傾向)があると判断された。

母体血と臍帯血の鉛濃度は低く、神経発達遅延傾向に明確な関連なし

胎内での鉛へのばく露は、母体血と臍帯血の鉛濃度で推定するが、今回の研究では、8万747人の母体血、4,302人の臍帯血に関して、平均でそれぞれ0.62µg/dL、0.50µg/dLと、これまでの報告と比べて非常に低濃度だった。出生体重などを考慮に入れた多変量解析を2つの方法で実施。1つ目は統計処理を有効に行うために鉛濃度を対数に変換した連続値を用いた解析で、臍帯血中鉛濃度はどの年齢の発達遅延傾向とも関連は見られなかった。また、母体血中鉛濃度については、1歳と2歳時点の発達遅延傾向との関連は見られなかったのに対して、その濃度の高値は3歳時点の神経発達遅延傾向の減少と関連しており、リスクは0.84(95%信頼区間は0.75-0.94)倍と算出された。

鉛濃度が低いグループから高いグループまで5つのグループに分けた2つ目の解析では、臍帯血や母体血の鉛濃度と、どの年齢の神経発達遅延傾向にも用量反応関係は見られず、明らかな関連は認められなかった。

この研究では、母体血と臍帯血の鉛濃度は低く、その濃度と神経発達遅延傾向に明確な関連は認められなかった。血中鉛濃度が低いことが理由である可能性もあるが、出生前の鉛へのばく露は、出生後のばく露に比べて影響が少ないということも考えられるとしている。

鉛へのばく露と神経発達の関係、さらなる研究を

今後、一部の参加者に対して対面式で実施されている詳細調査での採血や精神神経発達検査の結果を利用して、鉛へのばく露と精神神経発達の関連を検討する必要があるという。そのことにより、出生前から出生後の子どもの鉛へのばく露が、どのように神経認知機能に影響を与えるのかを明らかにしたいと考えていくとしている。

なお、この研究は、ばく露とアウトカムの関係性をみる、いわゆる観察研究と呼ばれるものであり、必ずしも因果関係を示すものではない。また、母親の認知機能検査が実施されていない、臍帯血の解析数が限られているなど、さまざまな制約がある。この研究をきっかけとして、鉛へのばく露と神経発達の関係についての研究をさらに進めていく、と研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 加齢による認知機能低下、ミノサイクリンで予防の可能性-都医学研ほか
  • EBV感染、CAEBV対象ルキソリチニブの医師主導治験で22%完全奏効-科学大ほか
  • 若年層のHTLV-1性感染症例、短い潜伏期間で眼疾患発症-科学大ほか
  • ロボット手術による直腸がん手術、射精・性交機能に対し有益と判明-横浜市大
  • 前立腺がん、治療決定時SDMが患者の治療後「後悔」低減に関連-北大