高血圧はがん患者の併存疾患として最多、ICI使用と関連するか
横浜市立大学は9月26日、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)に伴う高血圧のリスクについて、ランダム化比較試験32件・被験者総数1万9,810例のがん患者を対象としたシステマティック・レビュー(RCT)とメタ解析を行い、免疫チェックポイント阻害薬を開始しても、短期的には血圧が上昇しないことを証明したと発表した。この研究は、同大医学部循環器・腎臓・高血圧内科学の峯岸慎太郎助教、金口翔助教、滋賀医科大学NCD疫学研究センター最先端疫学部門の矢野裕一朗教授、香川大学医学部薬理学の西山成教授らの研究グループによるもの。研究成果は「AHA journal Hypertension」に掲載されている。
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がんに対する有効な治療法の開発に伴い、がん患者の予後は改善し、一部のがんでは、腫瘍の再発よりも心血管疾患などによる死亡が多くなってきている。研究グループは、高血圧とがんに注目し、「Onco-Hypertension(がん高血圧学)」という新しい概念を提唱している。がん患者には、高血圧を発症または増悪させる複数の病因があり、がん専門医、循環器内科医、腎臓内科医らによる集学的アプローチが必要だ。
免疫チェックポイント阻害薬は、がん治療において非常に優れた治療成績を示し、新時代を切り開く薬剤として日常臨床で広く用いられるようになっている。既存の薬剤では治療効果が不十分なさまざまな種類や病期のがんに対して抗腫瘍効果を発揮し、適応拡大のための多くの臨床試験が進行中だ。現在、臨床応用が進んでいる主な免疫チェックポイント阻害薬には、抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体、抗CTLA-4抗体があるが、その臨床的有用性にもかかわらず、さまざまな臓器症状を伴う免疫関連有害事象として知られる独特の副作用を引き起こすことがある。
心筋炎、不整脈、伝導異常、心膜疾患、たこつぼ心筋症などの免疫チェックポイント阻害薬に関連した心毒性は、がん患者にとって深刻かつ生命を脅かす可能性のある有害事象だ。免疫チェックポイント阻害薬の使用で、心血管疾患のリスクが増加することも報告されているが、高血圧との関連については、ほとんどわかっていない。がん患者の併存疾患としてもっとも多いものが高血圧であり、ある種のがん治療薬で高血圧が生じることも知られている。そこで、研究においては、RCTのメタ解析を用いて、がん患者における免疫チェックポイント阻害薬の開始と高血圧の関連を検証した。
1万9,810例の解析で高血圧と有意な関連を認めず
少なくとも1種類の免疫チェックポイント阻害薬と他のがん治療薬を併用し、対照群との比較を行っているRCTを選択して解析を行った。その結果、32件のRCT(n=1万9,810人のがん患者)が対象となった。含まれた試験の観察期間の中央値は36か月だったが、がん患者を対象としているため、全生存期間の中央値は15か月だった。免疫チェックポイント阻害薬の開始は、高血圧と有意な関連を認めなかった(オッズ比:1.12、95%信頼区間:0.96-1.30)。
製剤別のサブ解析でもグループ間に差は見られず
さらに、製剤別、併用薬、試験デザインにおけるサブ解析を実施した。抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体、抗CTLA-4抗体で、グループ間に差は見られず、抗血管内皮増殖因子製剤を含むさまざまな薬剤との免疫チェックポイント阻害薬併用療法では、高血圧リスクに有意差は認めなかった。試験デザインに基づくサブグループ解析(「プラセボRCT」と「非プラセボRCT」)では、得られた結果に不一致があり、非プラセボRCTではプラセボRCTよりも高血圧の発症リスクが高いという結果が得られた(異質性:I2=88.6%、P=0.003)。
「Onco-Hypertension」に基づいた多方面からのエビデンス構築を
研究成果により、免疫チェックポイント阻害薬はがん患者における短期的な高血圧のリスクを増加させないことが証明された。高血圧とがんの関連、血圧を上昇させるがん関連因子、薬剤とがんリスクなど、複雑なメカニズムに対処していくためには、多職種による学際的な協力が重要だ。「Onco-Hypertensionという新しいコンセプトに基づき、多方面からエビデンスの構築を行い、がん患者の管理を最適化し、予後を改善していきたい」と、研究グループは述べている。
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