動脈周りの脂肪組織、その存在意義は?
東京大学医学部附属病院は9月7日、動脈血管が傷つくと血管の外側にある血管周囲脂肪組織に褐色化が生じることを発見し、褐色化した血管周囲脂肪組織は、抗炎症物質(ニューレグリン4)を分泌して、血管傷害後に起こる炎症が過剰になりすぎないように適切にコントロールしていることがわかったと発表した。この研究は、同大病院循環器内科の安達裕助特任研究員、上田和孝助教、小室一成教授、糖尿病・代謝内科の山内敏正教授、病理部の牛久哲男教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Communications」オンライン版に掲載されている。
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動脈硬化は「動脈の内壁が肥厚・硬化して本来の構造が壊れ、働きの悪くなった状態」を指し、日本人のおよそ5人に1人は動脈硬化による心臓や脳の病気で亡くなることが知られている。これまで、動脈硬化が起きるメカニズムは、はじめに血管内皮という血管の内側の膜に何らかのダメージが加わり、それに対する反応として生じた炎症が血管の内側から外側へ次第に広がっていく結果、血管の構造が壊れていくものと考えられてきた。一方、動脈は周りを脂肪組織(血管周囲脂肪組織)に囲まれていることは以前から知られていたが、その存在意義については長く研究対象とならず、ほとんど研究されていなかった。
近年の医学研究により、内臓脂肪や皮下脂肪がさまざまなサイトカインを介して体の状態を調節していることが明らかになってきている。そこで研究グループは、血管周囲脂肪組織にも隣接する動脈に作用するような特別な働きがあるのではないかと考えて研究を行った。
マウス動脈を傷害すると血管周囲組織で脂肪褐色化、ブロックで血管炎症と動脈硬化が悪化
研究グループは、網羅的遺伝子発現解析を用いて、マウスの動脈に物理的ダメージ(血管傷害)を加えた後の血管周囲組織で「脂肪褐色化」という現象が起きることを発見。褐色脂肪はエネルギーや脂肪の代謝に関わっており、「エネルギーを燃やす脂肪」として近年注目されているが、動脈硬化における脂肪褐色化の役割はほとんどわかっていない。
そこで次に、脂肪褐色化をブロックした遺伝子改変マウス(Adipoq-Cre; Prdm16 floxマウス)の動脈に血管傷害を加えた。その結果、脂肪褐色化のブロックによって血管傷害後の血管炎症と動脈硬化が悪化することがわかった。反対に、脂肪褐色化を促進するアドレナリンβ3受容体刺激薬を投与すると、血管炎症と動脈硬化が軽減した。
褐色化した脂肪細胞はニューレグリン4を多量に分泌、マクロファージに働き炎症抑制
そこで、褐色化した脂肪がどのように動脈硬化の悪化を防いでいるのかを知るために、シングルセル解析で調べた。その結果、褐色化した脂肪細胞からはタンパク質ニューレグリン4が多量に分泌されていることがわかった。
細胞を使った実験で、ニューレグリン4はマクロファージに働きかけて炎症を抑える効果を持っていることが判明。さらに、マウスの血管でニューレグリン4の働きを抑えると、褐色化した血管周囲脂肪による動脈硬化の軽減効果がなくなることが確認された。
以上の実験から、動脈血管がダメージを受けると、血管周囲脂肪組織が褐色化し、ニューレグリン4を分泌して血管の炎症を適切にコントロールすることで動脈硬化の悪化を防いでいることがわかった。
動脈硬化性疾患の新規治療法開発に期待
今回の研究によって、血管の外側に存在する血管周囲脂肪が動脈硬化の形成プロセスにおいて重要な役割を果たしていることが明らかになった。今後は血管周囲脂肪組織の機能をターゲットにした動脈硬化性疾患の新たな治療法の開発につなげることを目指す、と研究グループは述べている。
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