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慢性腎臓病を有する発症時刻不明脳梗塞、tPA静注療法の有効性を示唆-国循ほか

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2022年09月14日 AM09:22

EOS研究の個別臨床情報を用いて、慢性腎臓病を対象にサブ解析

国立循環器病研究センターは9月9日、国内外の4つの無作為割付試験をまとめた統合解析を用いて、慢性腎臓病の患者に対する静注血栓溶解療法の有効性と安全性を解明したと発表した。この研究は、同センターの豊田一則副院長、古賀政利脳血管内科部長らが参加した国際研究チーム、国循脳血管内科の三輪佳織医長、古賀政利部長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Stroke」にオンライン版に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

急性期脳梗塞に対し、高い治療効果を示す治療法として、遺伝子組み換えによる組織型プラスミノゲン・アクティベータ(tPA)を用いた静注血栓溶解療法(以下、)がある。発症後4.5時間以内の患者に使用できるが、4.5時間を超えた患者に対しては用いることが出来ない。脳梗塞患者の約2割は、睡眠中に発症して朝起床時に症状に気付いたり、会話やコミュニケーションが困難となった状態を他者に発見されたりするケースであるため、正確な発症時刻がわからず、tPA静注療法を受けることが出来ない。

このような発症時刻不明の脳梗塞患者に対して、専門的な頭部画像診断を用いて発症時刻を推測した後に、治療適応のある患者にtPA静注療法の治療効果を確かめる臨床試験が国内外で行われた。EOS(Evaluation of unknown Onset Stroke thrombolysis trials)研究では、これらの無作為割付試験の個別臨床情報を統合したメタ解析とシステマティックレビューを行い、発症時刻不明脳梗塞患者に対し、tPA静注療法は転帰改善に有効であることを解明し、2020年のLancet誌に報告した。

同研究では、EOS研究の個別臨床情報を用いて、慢性腎臓病を対象疾患とするサブ解析研究を行った。慢性腎臓病患者は、健常人に比べ、脳卒中発症リスクが2倍高く、さらに脳卒中後の予後不良と関連する。このように慢性腎臓病を合併する患者は、ハイリスク患者であるため、とくに腎機能低下の進行例や透析患者は臨床試験から除外されることが多く、慢性腎臓病を対象としたtPA静注療法の効果を検証した報告はなかった。

慢性腎臓病既往あり146例/なし542例、tPA静注療法の有効性と安全性を検証

今回の研究では、「発症時刻不明の脳梗塞患者に対するtPA静注療法と対照治療の無作為化比較を、専門的な頭部画像診断を用いた患者選定に基づいて行う」という条件を満たす4つの臨床試験を統合したEOS研究のデータセットを用いた。欧州で行われたWAKE-UP試験と、日本のTHAWS試験(THrombolysis for Acute Wake-up and unclear-onset Strokes with alteplase at 0.6 mg/kg)、豪州を中心に行われたEXTEND試験と欧州で行われたECASS-4試験が含まれている。このうちTHAWS試験は、)の研究助成を受けて、国循を中心に国内多施設共同で行われ、主解析論文はStroke誌に報告している。

EOS研究の全登録症例843例のうち、入院時血液検査が入力された688例を本研究の対象とした。血清クレアチニン値から、腎機能の指標である推定糸球体濾過量(eGFR)を算出し、eGFR 60 ml/min/1.72 m2未満を「慢性腎臓病の既往あり」、eGFR 60mL/min/1.73 m2以上を「慢性腎臓病の既往がない」と分類。慢性腎臓病の既往がある146例(21%)とその既往のない542例(79%)に対し、tPA静注療法の有効性と安全性をそれぞれ検証した。

tPA静脈療法の転帰改善効果を示唆、安全性の群間差も許容範囲内

発症90日後の患者自立度を、修正ランキン尺度(0:後遺障害なし~6:死亡の7段階の評価法)を用いた。慢性腎臓病の患者において、完全自立の状態とみなされる同尺度の0または1の割合は、実薬群46%、対照群(偽薬または従来治療)36%で、年齢や初期脳卒中重症度の補正した後のオッズ比は1.19となり、tPAを用いることで約20%増の転帰改善の傾向が得られた。安全性評価については、症候性頭蓋内出血は実薬群2例(3%)、対照群0例、死亡は実薬群3例(4%)、対照群2例(3%)だった。

一方で、慢性腎臓病の既往のない患者において、修正ランキン尺度の0または1の割合は、実薬群51%、対照群43%で、年齢や初期脳卒中重症度の補正した後のオッズ比は1.42と同じくtPAを用いることで約40%増の転帰改善の傾向が得られた。安全性評価については、症候性頭蓋内出血は実薬群5例(1.8%)、対照群1例(0.4%)、死亡は実薬群15例(5%)、対照群6例(2%)だった。

慢性腎臓病の登録症例数が少数であるため、統計学的な有意確率は得られなかったものの、対照と比べてtPA静脈療法の転帰改善効果が示唆され、また安全性の群間差も許容範囲内だった。

今後、重度慢性腎臓病や透析患者対象の検証を

同研究は世界で初めて、慢性腎臓病を合併する急性期脳梗塞患者におけるtPA静注療法の治療効果を検証した報告だという。慢性腎臓病の既往にかかわらず、急性期脳梗塞に対するtPA静注療法の有効性と安全性が示唆された。eGFR<30ml/min/1.73 m2以下の慢性腎臓病は9名と登録が少なく、さらに維持透析患者は研究に含まれなかったため、重度の慢性腎臓病や透析患者を対象とした今後の検証が必要だ、と研究グループは述べている。

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