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乳児期発症急性リンパ性白血病、分子遺伝学的分類により予後不良群を見出す-京大ほか

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2022年09月01日 PM12:42

悪性のKMT2A融合遺伝子陽性乳児ALL、5年無イベント生存率は4割程度

京都大学は8月31日、KMT2A-r乳児ALL84例のゲノム・エピゲノム異常の全体像を解明し、その結果、遺伝子発現、DNAメチル化のパターンから乳児ALLは5群に分類されることを見出し、それぞれの群の遺伝子異常の特徴と臨床的特性を明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科発達小児科学の滝田順子教授、腫瘍生物学講座の小川誠司教授、東京医科歯科大学医歯学総合研究科発生発達病態学分野の髙木正稔准教授、東京大学医学部附属病院小児科の磯部知弥研究員、佐藤亜以子特任研究員らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Communications」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

白血病は血液を作る骨髄やリンパ節などの造血組織に発生する悪性腫瘍である。小児期の悪性腫瘍の中では最も高頻度で、約5%は乳児期(0歳児)に発生する。乳児期発症急性リンパ性白血病(乳児ALL)の約80%を占めるKMT2A融合遺伝子陽性乳児ALL(KMT2A-r乳児ALL)は特に悪性度が高く、いまだ5年無イベント生存率(EFS)が40%程度の難しい疾患である。また救命された例では、化学療法の副作用による不妊や成長障害、臓器機能障害などが重大な問題であり、現在の治療は、将来のある小児の患者にとって十分であるとは言えない。日本では、乳児白血病共同研究委員会(JILSG)により、1990年代から乳児ALLに特化した臨床試験が開始され、日本小児白血病リンパ腫研究グループ(JPLSG)を経て、現在は日本小児がん研究グループ(JCCG)のもと全国規模の臨床試験を行っている。臨床研究と並行して、予後の悪い群に対する新規治療法や、精度の高い予後予測に基づいた治療の最適化を研究・開発することは非常に重要な課題である。そのためには、乳児ALLの発症や進展にはどのような分子機構が関わっているかを解明する必要がある。

大規模検体を用いたKMT2A-r乳児ALLの統合的オミクス解析により分子遺伝学的に分類

KMT2A-r乳児ALLは、胎児期に血液細胞が発生する過程でKMT2A融合遺伝子を生じることで発症する。正常のKMT2A遺伝子は、エピゲノム修飾を介して造血発生を制御するため、異常なKMT2A融合遺伝子はエピゲノム異常を介して白血病の原因となると考えられている。しかしながら、KMT2A-r乳児ALLにおけるエピゲノム異常の網羅的解析は、ほとんど行われていなかった。また、次世代シーケンサーによる網羅的ゲノム解析により、RAS経路の変異を多く有することが報告されたが、どのような群にどの遺伝子異常が多いのか、どのような遺伝子異常が予後を予測するバイオマーカーとなるのかは解明されていないのが現状である。

そこで研究グループは、ゲノム異常と遺伝子発現、DNAメチル化の異常を同定する統合的オミクス解析を行い、KMT2A-r乳児ALLにおけるゲノム・エピゲノム異常の全体像を解明した。今回の研究は、大規模検体を用いた統合的オミクス解析によりKMT2A-r乳児ALLの分子遺伝学的分類を示す世界で初めての報告であるという。

遺伝子発現とDNAメチル化データに基づき5つの群に分類、予後不良となる群が明らかに

まず、KMT2A-r乳児ALL計84例の白血病細胞からDNAを採取、うち61例からは更にRNAを採取し、まずDNA、RNAともに得られた61例において、全トランスクリプトーム解析とDNAメチル化アレイ解析を行った。得られた遺伝子発現とDNAメチル化データに基づくオミクス統合的クラスタリング解析により、KMT2A-r乳児ALLを5つの群に分類し、Integrative Cluster 1~5(IC1~IC5)と名付けた。DNAのみを採取できた23例においてもメチル化アレイ解析を行ったところ、同様の5群が再現された。同定された5群に対し、群間の遺伝子発現、DNAメチル化状態の比較、次世代シーケンサーを用いた遺伝子変異解析を行い、さらに生存期間などの臨床情報を比較することにより、5群の特徴として以下のようなことを明らかにした。

(1)5つの群はIRX転写因子群およびHOXA転写因子群の発現およびDNAメチル化パターンにより、IRXタイプ(IC1〜2)とHOXAタイプ(IC3〜5)に大別された。
(2)HOXAタイプは、KMT2A融合遺伝子の転座パートナーごとに異なる分子プロファイルを示し、KMT2A-MLLT1、KMT2A-MLLT3、KMT2A-AFF1を有する症例がそれぞれIC3、IC4、IC5に分類された。
(3)IRXタイプはHOXAタイプに比較して造血細胞としての分化が未熟であり、特にIC2は5群の中で最も未分化な白血病(IRXタイプ最未分化型)として特徴づけられた。
(4)今回の研究において定義したIC分類は有意に予後と関連し、IC2(IRXタイプ未分化型)は無イベント生存率、全生存率ともに最も悪い予後不良群であることがわかった。
(5)RAS経路の遺伝子変異はIC2で最も高頻度(14例中14例)で、さらにIC2では1症例あたりに複数のRAS経路変異を有することが明らかになった。
(6)3種類以上のRAS経路変異を持つ症例は、RAS経路変異を持たない症例に比べて有意に予後不良であった。

これらの結果は、これまで1つの疾患として捉えられてきたKMT2A-r乳児ALLの多様性を示すものであり、治療の個別化・最適化のための新たな分子診断法を提唱するものである。とりわけ、IRX転写因子の発現とRAS経路の重複変異を特徴とするIRXタイプ最未分化型の発見は、予後不良の指標となりうるだけでなく、この群に対してRAS経路を標的とした新たな治療戦略の可能性を示すものと言える。

予後を予測するバイオマーカーだけでなく、RAS経路を標的とした治療戦略の可能性を示す

今回の研究によってKMT2A-r乳児ALLのゲノム・エピゲノム異常の全体像が明らかとなり、KMT2A-r乳児ALLの分子病態の理解に大きな進展をもたらした。統合的オミクス解析により、KMT2A-r乳児ALLが5群に分類されることを明らかにし、特に予後不良な群として、IRX転写因子の発現とRAS経路の重複変異を特徴とするIRXタイプ最未分化型を定義した。これらは、KMT2A-r乳児ALLにおいて、予後を予測するバイオマーカーとなりうるだけでなく、RAS経路を標的とした治療戦略の可能性を示す、臨床的発展性の高い発見と言える。この新たな遺伝学的分類は、患者の個々の治療を考える上で重要であり、個別化医療の実現に多大な貢献をなすものと考えられる。「精度の高い新規分子診断は今後のKMT2A-r乳児ALLの治療の最適化に貢献し、予後を改善するのみならずQOLの向上にもつながるものと期待される。今後はRAS経路変異を有する予後不良群への、分子標的薬を用いた新規治療戦略の開発を目指す」と、研究グループは述べている。

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