腸内細菌が腸管内の免疫細胞を刺激して全身に影響を与えるメカニズムは不明だった
近畿大学は8月31日、乳酸菌が宿主の腸内において、「細胞外膜小胞」を用いて免疫細胞を活性化する仕組みを解明したと発表した。この研究は、同大農学部応用生命化学科の倉田淳志准教授、上垣浩一教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」に掲載されている。
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ヒトは日常的に発酵食品を介して乳酸菌などの細菌を摂取している。また、ヒトなど動物の腸管には腸内フローラ(腸内細菌叢)と呼ばれる細菌群が生息している。摂取した細菌や、腸内に存在する細菌は、腸管内の免疫細胞を刺激して全身に多様な影響を与えることが知られているが、具体的な仕組みや影響の全容は明らかになっていない。
一方、身の回りに存在する細菌は「細胞外膜小胞」を放出し、細菌同士のコミュニケーションを取っていることが明らかになりつつある。同様に、発酵食品や腸管に関連する細菌も、細胞外膜小胞を使って宿主の細胞に影響を与えていると考えられるが、その詳細は不明だ。
L. plantarumの細胞外膜小胞によって自然免疫が刺激され、獲得免疫も活性化
研究グループは今回、4種類の乳酸菌の特性を分析し、その中で特に多くの細胞外膜小胞を産出する「Lactiplantibacillus plantarum(以下、L. plantarum)」を用いて免疫作用への影響を検証した。
L. plantarumの細胞外膜小胞を培養細胞に添加したところ、炎症性のサイトカインであるインターロイキンのうち、IL-1βとIL-6、抗炎症性のサイトカインであるIL-10の産生が増加した。免疫機構のうち自然免疫が刺激されると免疫細胞がサイトカインを産生することが知られているため、L. plantarumの細胞外膜小胞によって自然免疫が刺激されることが示唆された。
さらに、獲得免疫にかかわる細胞に細胞外膜小胞を添加した結果、抗体であるIgAの産生を誘導することがわかり、細胞外膜小胞が獲得免疫も活性化することが明らかになった。
腸管内に乳酸菌の細胞外膜小胞が存在し、免疫系の恒常性を保っていた
次に、乳酸菌の細胞外膜小胞が、宿主細胞を活性化する仕組みを分析した。その結果、細胞外膜小胞側の表層タンパク質である「リポペプチド」がリガンドとして働き、宿主細胞上では表面のトル様受容体である「TLR2」が受容体として機能していることが判明した。
さらに、実際に動物の腸管内に細胞外膜小胞が存在するかを確認するため、ラットの消化管から細胞外膜小胞を抽出し、粒子数とサイズを評価した。その結果、ラットの消化管には多量の細胞外膜小胞が存在することが判明した。これにより、動物の腸管内には乳酸菌の細胞外膜小胞が存在しており、免疫系の恒常性を保っていることが世界で初めて明らかにされた。
腸内環境の改善や身体機能を健康に保つ技術の開発に期待
今回の研究成果により、乳酸菌が細胞外膜小胞を介して、宿主の免疫系を高める仕組みが明らかにされた。本研究成果を応用することにより、発酵食品などから日常的に摂取しているさまざまな細菌の働きが明らかになり、腸内環境を改善する技術や、身体機能を健康に保つ技術の開発につながることが期待される、と研究グループは述べている。
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