女性の不妊治療と就労の両立を支援するには?ハラスメントの実態調査
順天堂大学は8月25日、国内で不妊治療専門の医療機関の外来を受診した女性患者を対象に、不妊治療と就労の両立に関する大規模疫学研究(J-FEMA Study:Japan-Female Employment and Mental health in Assisted reproductive technology)を実施した結果を発表した。この研究は、同大大学院医学研究科公衆衛生学の植田結人大学院生、遠藤源樹非常勤講師、谷川武主任教授らと産婦人科学講座の黒田恵司非常勤講師、竹田省特任教授、板倉敦夫教授、田中温客員教授、佐藤雄一非常勤講師らの共同研究グループによるもの。研究成果は、「International Archives of Occupational and Environmental Health」に掲載されている。
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日本国内の出生数は、過去50年間でおおよそ半減しており、著しいスピードで減少している。(1970年:193万4,239人、2020年:84万835人)また、女性の社会進出に伴い、初婚と初産の年齢が上昇している。(初婚:1970年24.7歳、2020年29.4歳、最初の出産:1970年25.6歳、2020年30.7歳)このような状況の中で、不妊治療を受ける夫婦の数が増加している。加えて、体外受精の技術が過去数十年で大きく進歩を遂げており、国内では体外受精の症例数が昨今大きく増加している。
不妊治療は、治療が進むにつれて身体的、心理的、そしてスケジュールの面でも負担が大きくなっていく。特に体外受精を含む生殖補助医療(ART:artificial reproductive technology)は、個々の月経周期に合わせた頻繁な通院が必要だ。しかし、仕事をしている女性が不妊治療を行ううえで、職場の理解が得られず、退職せざるを得なかったり、解雇やハラスメントを受けることも少なくないと考えられている。
令和2年6月に施行された、「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律」により、雇用者は職場におけるセクシュアルハラスメントについて、防止措置を講じることが義務付けられた。その中で、業務体制の整備など、職場における妊娠・出産などに関するハラスメントの原因や、背景となる要因を解消するために必要な措置を講ずる責務が明記された。このことから、今後ますます職場における不妊治療中の女性へのハラスメント対策が注目されると考えられる。しかし、現状では不妊治療中の女性におけるハラスメントに焦点を当てた研究は報告されていない。そこで研究グループは、職場での不妊治療関連のハラスメントの現状とその要因を明らかにすることを目的に調査を実施した。
不妊治療関連のハラスメントの要因の1つは「体外受精の回数が多い」
2018年8月~12月に、不妊治療専門の医療機関(4施設)の外来を受診した就労中の女性(1,103人)にアンケート調査を実施した。調査項目は、年齢、不妊期間、体外受精の回数、学歴、居住地、職場規模、雇用形態、職場への不妊治療の開示などで、不妊治療に関するハラスメントの現状とその要因を抽出した。
その結果、不妊治療開始後に82人(7.4%)が不妊治療関連のハラスメントを経験していたことが明らかになった。さらに、不妊治療関連のハラスメントに影響を与える要因については「体外受精の回数が多いこと」「職場に不妊治療をしていることを伝えていること」の2つが関連していることが明らかになった。
頻繁な外来のため欠勤が増え、ハラスメントが引き起こされる可能性
この結果について、「体外受精の回数が多いこと」に関しては、不妊治療に伴う頻回な通院のための欠勤が影響していると考えられた。体外受精を含むART治療は、臨床検査のための頻繁な外来診など、多数の処置を必要とするため、それにより欠勤が増えることで、職場の上司や同僚などによるハラスメントを引き起こすと推察された。
不妊治療に関する何気ない会話がハラスメントにつながっている可能性
「職場に不妊治療をしていることを伝えていること」に関しては、不妊治療に対する偏見が影響していると考えられた。日本では不妊治療に関する知識を得る機会が少なく、不妊治療への理解が得られていない現状もあることから、不妊治療に関する何気ない会話がハラスメントにつながっている可能性が考えられた。さらに、当事者にとっては職場に不妊治療をしていることを伝えることにより、偏見などによる悪影響を受ける可能性がある一方、伝えないと職場でのサポートを受けられないというジレンマがあるといわれていることから、職場の人々が不妊治療に関する正しい知識を習得することと、職場における不妊症患者をサポートする体制を整備することが必要であると考えられた。
不妊治療患者をサポートする職場体制の整備、不妊治療に関する啓発活動が重要
令和4年4月より不妊治療が保険適用されたことからも、不妊治療と就労の両立支援は、今後も重要性が増していくと考えられる。今回の研究により、「体外受精の回数が多いこと」、「職場に不妊治療をしていることを伝えていること」が不妊治療関連のハラスメントの要因であることが明らかになった。「職場での不妊治療関連のハラスメントの問題を改善するためには、不妊治療休暇制度やフレックスタイム制度など、不妊治療中の社員をサポートできるような職場体制の整備と、職場での不妊治療に関する健康教育や啓発活動が重要であると考えられる」と、研究グループは述べている。
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