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妊婦の喫煙は妊娠高血圧症候群のリスク増、欧州と正反対の結果-成育医療センターほか

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2022年08月12日 AM10:25

欧米からの報告「喫煙と妊娠中の高血圧との不可解な関係」、日本では?

国立成育医療研究センターは8月9日、国内の出生コホートに参加した2万8,219人の妊婦の情報を用いて、妊娠中期以降も喫煙を続けると、非喫煙者と比べて妊娠高血圧症候群のリスクが約1.2倍高くなる可能性を示したと発表した。この研究は、同センター社会医学研究部の森崎菜穂部長、東北大学東北メディカル・メガバンク機構予防医学・疫学部門の栗山進一教授らのグループが立ち上げた、全国出生コホートコンソーシアム「Japan Birth Cohort Consortium(JBiCC)」によるもの。研究成果は、「Journal of Epidemiology」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

妊娠中の喫煙は、死産、早産、低出生体重児の出生など、数多くのリスクをもたらすことが広く知られている。一方で、妊娠中に血圧が上がって、胎児の発育が悪くなったり胎盤が子宮の壁からはがれやすくなったりするなど、母児共に大変危険な状態となることがある「」の発症については、妊娠中に喫煙しているほどリスクが下がる、という結果が「喫煙と妊娠中の高血圧との不可解な関係(The puzzling association between smoking and hypertension during pregnancy)」(Zhang ら)として欧米では繰り返し報告されていた。

しかし最近、喫煙によりどれくらい高血圧になりやすいかは、遺伝的背景などの体質により異なる可能性、さらに日本人などのアジア人では喫煙により高血圧になりやすい遺伝的背景を持つ人が多い可能性が報告された。このため、妊娠高血圧症候群についても、欧米では喫煙がリスクを下げる効果があっても、日本人ではその効果が異なる可能性が危惧されていた。

国内コホートの相互的・統合的な利活用推進を目的にJBiCC発起

先制医療の提唱とともに「ライフステージに応じた健康課題の克服」が政府の定める「医療分野研究開発推進計画」に明記され、国や地方自治体の重要施策として取り上げられるようになっている。このため、生涯にわたる健康づくりの基礎となる幼少期にも注目が集まっている。幼少期の適切な環境を探るためには、子どもたちやその家庭を長期的に追跡する、コホート研究が最適だ。また、民族集団や国により遺伝的背景や文化的背景が異なるため、日本での施策に生かすには日本人において調べられた結果が最も重要となる。

日本でも海外同様に、妊娠期からこどもや家庭を追跡する「出生コホート」研究が数多く実施されてきており、これらの知見は幼少期の環境改善の提案に役に立ってきている。しかし、出生コホートの多くは規模が数百人から数万人のものが多く、成人分野で行われているコホートと比べると小規模だ。出生コホート研究同士が連携し、その知見を統合することにより、さらに明確な科学的根拠が得られると考えられていた。このため、最近ではこれらの研究に携わっている関係者の人材交流や知見交流を促進するさまざまな取り組みが行われている。

国内で実施されている出生コホートのデータの相互的・統合的な利活用を推進することを目的として、全国出生コホートコンソーシアム(JBiCC)が2022年2月に立ち上がった。参加コホートは6つ(2022年7月現在)で、計約5万組の母子が調査に協力している。参加コホートは以下の通り。「環境と子どもの健康に関する北海道スタディ」(代表:北海道大学岸玲子特別招へい教授)、「東北大学三世代コホート調査」(代表:東北大学栗山進一教授)、「浜松母と子の出生コホート研究(HBC Study)」(代表:浜松医科大学土屋賢治特任教授)「母子健康手帳・家庭自己測定血圧に基づいた三世代(祖父母、父母、児)の血圧・環境・遺伝要因連関と生活習慣病発症に関する研究(BOSHI study)」(代表:東北医科薬科大学目時弘仁教授)、「胎児期に始まる子どもの健康と発達に関する調査(C-MACH)」(代表:千葉大学森千里教授)、「成育母子コホート」(代表:国立成育医療研究センター堀川玲子診療部長)。

「妊娠中期以降の喫煙継続」「妊娠初期に1日10本以上喫煙」でリスク増、妊娠高血圧腎症も

JBiCCに参加しているコホートと、環境省が実施しているエコチル調査からの既報を統合的に分析した結果、「妊娠中期以降も喫煙を続けている場合」に約1.2倍、「妊娠初期に1日10本以上喫煙している場合」に約1.05倍、喫煙していない妊婦と比べ、妊娠高血圧症候群のリスクを高めることがわかった。これは、欧米で行われた多くの研究で見られた「妊娠中の喫煙は妊娠高血圧症候群になりにくくする」結果とは正反対だった。

妊娠高血圧の重症型である「」についても、同様に「妊娠中期以降も喫煙を続けている場合」や「妊娠初期に1日10本以上喫煙している場合」には、喫煙していない妊婦と比べてリスクが高い傾向を認めた。

遺伝的背景の違いなども含めたメカニズムの解明に期待

今回、全国出生コホートコンソーシアム(JBiCC)で、日本人の妊娠中の喫煙は、死産、早産や胎児発育不全など既知の悪影響だけではなく、妊娠高血圧症候群を起こしやすくすることがわかった。欧米での報告と異なり、なぜ日本人と欧米人では妊娠中の喫煙が妊娠高血圧症候群のリスクに与える影響が異なるのか、遺伝的背景の違いなども含めて、今後メカニズムの解明が期待される。

「JBiCCは参加コホートで評価指標に関する知見を共有すること、また重要な社会課題について参加コホートの統合メタ解析を実施し、オールジャパンの知見を発信することを目指して、今後も活動する」と、研究グループは述べている。

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