食事内容を評価可能な、「簡便かつ安価に使用できる」測定法の開発
東京大学は8月8日、朝食・昼食・夕食・間食ごとの食品摂取量を推定することを目的とした簡易食習慣評価ツール(MDHQ;Meal-based Diet History Questionnaire)を開発したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科社会予防疫学分野の村上健太郎助教、篠崎奈々客員研究員、佐々木敏教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nutrients」にオンライン掲載されている。
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不適切な食事摂取は、慢性疾患の発症や早期死亡の主要な危険因子として広く認識されており、食事の質の向上は今や世界的な優先事項となっている。食事と疾病の関係を明らかにし、より望ましい食行動を支援するための効果的な方策を開発するためには、習慣的な食事摂取状況の正確な測定が必須である。
この分野の研究は従来、個々の栄養素や食品についての1日合計の摂取量といった「何を食べるか」や「どのくらい食べるか」という点のみが注目されてきた。しかし、近年、食事のタイミングといった「どのように食べるか」という観点の研究が増えてきている。「どのように食べるか」という視点からの科学的知見が蓄積していくことは、より意義のある食事ガイドラインや公衆衛生メッセージを策定したり、健康的な食事を促進するための効果的な介入戦略を開発したりするためにとても重要である。しかし、この分野の研究は世界的に見てもあまり進展していない。主な理由の一つとして「大規模な集団に対して、簡便かつ安価に使用できる測定法が存在しない」ということが挙げられる。
そこで研究グループは、日本人成人から収集した詳細な食事調査データと、食行動に関する既存の科学的知見をもとに、朝食・昼食・夕食・間食ごとの食品摂取量を推定することを目的とした簡易食習慣評価ツールであるMDHQを開発した。
開発したMDHQの正確さ、標準的な食事記録と比較して検証
研究は、2021年8~10月に全国14都道府県で実施した調査で得られたデータをもとにしたもの。調査参加者は30~76歳の日本人成人222人(男女111人ずつ)だった。参加者に対し、研究内容を説明したうえで、まず、ウェブ版のMDHQに回答してもらった。MDHQは、最近1か月間の食習慣を尋ねる質問票で、回答には約15分を要する。その後、4日間にわたって、食べたり飲んだりしたものを、量も含めて全て記録する食事調査法である「食事記録」を実施してもらった。最後に、紙版のMDHQに回答してもらった。
MDHQの回答に基づき、専用の計算アルゴリズムを用いて各種食品群の摂取量を計算。同じように、食事記録のデータをもとにして各種食品群の摂取量を計算した。24の主要な食品群について、MDHQから推定された摂取量の平均値と、比較基準となる食事記録から推定された摂取量の平均値を比較した。
MDHQから推定された食品摂取量は正確であることを確認
女性において、両者に統計的に有意な差が観察されなかった食品群の数は、朝食で11、昼食で12、夕食で12、間食で13、全ての食事(1日合計)で6だった。男性では、朝食で10、昼食で13、夕食で13、間食で8、全ての食事で11だった。MDHQから計算された平均値が、食事記録から計算された平均値と特に近かった例として、朝食の乳製品、昼食の米飯、夕食のアルコール飲料、間食の砂糖入り飲料、全ての食事(1日合計)の果物が挙げられた。
以上より、MDHQは、多くの食品群において、十分な平均値の推定能力を有していると考えられた。また、摂取量が少ない人から多い人までを順位付けする能力に関しても、MDHQは、多くの食品群において、十分な能力を有していることがわかった。さらに、ウェブ版と紙版のMDHQの性能は、基本的には同程度であることも判明した。
今後、食事の他の側面におけるMDHQの性能を検討
今回の研究で、朝食・昼食・夕食・間食ごとの食品摂取量が推定できる簡易食習慣評価ツールが世界で初めて開発された。また、MDHQはウェブ版、紙版ともに、基準法である4日間の食事記録に比べて十分に妥当な食品摂取量を算出する性能を有することが示唆された。MDHQは、食事摂取の時間帯やタイミングに着目した食事と疾病の関係に関する栄養疫学研究や時間栄養学研究において、有用な食事調査ツールと言える。「そのような研究成果が蓄積すれば、より日常の食べ方に沿った食事指導や栄養教育が実現できると考えられる。MDHQの科学的根拠をより確かなものにするため、今後、食事の他の側面(例えば、栄養素レベルや食事の質)におけるMDHQの性能を検討していく予定」と、研究グループは述べている。
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・東京大学 プレスリリース