コロナ禍で家族の時間が増え、家族にまつわる問題が増えている
東北大学は8月4日、コロナ禍における同居家族の基礎変数と、コロナ禍で取り上げられている家族に関する社会問題との関連を調査した結果について発表した。この研究は、同大大学院教育学研究科の鴨志田冴子氏(博士課程後期在籍)、若島孔文教授を中心とする研究グループによるもの。研究成果は、「PLOS ONE」に掲載されている。
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新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)感染拡大により、各国の政府は医療的措置に加え、都市や地域、場合によっては国全体をロックダウン(都市の隔離封鎖)した。そして、必要な従業員のみが出勤できるリモートワーク制度の導入や学校の一斉休校といった、人の出入りを出来る限り制限するという形での対策が実施された。これにより、人々は家で過ごすことを余儀なくされるようになり早2年が経過している。
一方、家族で過ごす時間が増えたことで家族にまつわる問題が増えてきている。具体的には、児童虐待の増加、ネット依存の増加、介護にまつわる問題の増加、家庭内暴力や離婚に関する相談の増加、自殺率の増加などが社会動向として挙げられる。しかし、これらの社会問題と具体的な家族内の要因の関連は明らかではない。Madanes&Madanes(1994)によれば、家族内における経済的困窮、性的問題や家庭内暴力、虐待といった問題は互いに付随しやすく、規則の逸脱が他の逸脱を呼ぶと指摘している。これを踏まえ、家族の住居形態や経済状況といったマクロな変数から、世帯人数や家族成員、生活を共にする時間の多さや住居の部屋数などのさまざまなミクロな家族内の変数までを含めて、社会問題への影響を検討する必要があると研究グループは考えた。
2021年10月上旬、日本在住の子どもを持つ親を対象にWeb調査実施
そこで今回の研究では、コロナ禍における同居家族に関する変数と新型コロナ感染不安、配偶者からの暴力や児童虐待不安、ネット依存、精神的健康との関連について検討することを目的とした。2021年10月上旬、日本国内在住の子どもを持つ親を対象にWeb調査を実施。220名(平均年齢41.6歳,SD=34.4)のデータを分析した。日本における2021年10月初旬の新型コロナ情勢について、週別平均有症者数は1,810人であり、感染拡大第5波がみられた8月の週別平均有症者数2万3,149人に比べ減少し始めた時期で、緊急事態宣言も解除に至った時期だった。
従属変数をコロナ感染不安、配偶者からの暴力、児童虐待不安、ネット依存、精神的健康得点とし、独立変数を対象者の性別や呼吸器疾患の有無などの個人に関する基礎変数、および家族内の未就学児や高齢者の有無といった家族に関する基礎変数とした。その後、階層的重回帰分析(ステップワイズ法)を行った。
喫煙者は配偶者から暴力を受けやすい・有職者ほどインターネット依存に陥りやすい可能性など
その結果、新型コロナ不安については関連が見られなかった。喫煙をしている人ほど、配偶者からの暴力を受けやすい可能性があった(β=.154,p<.05)。また、未就学児がいる人ほど、虐待をしてしまうのではないかという不安が高い可能性があった(β=.203,p<.01)。
その他、コロナ禍に収入が減った家族(β=.196,p<.01)、コロナ禍でも有職の家族(β=.189,p<.01)、部屋数が少ない家族(β=-.140,p<.05)ほど、インターネット依存になりやすい可能性があった。コロナ禍に収入が減った家族(β=.134,p<.05)、新型コロナに対する意見の対立がある家族(β=.206,p<.01)ほど、精神的健康が良くない可能性があることがわかったとしている。
コロナ禍での家族支援の、リスク評価指標として参照できる可能性
未就学児がいる人ほど虐待不安を持ちやすいことや、収入がコロナ禍前と比べて減った人が精神的な不健康につながることは、コロナ禍とは関連のない先行研究でも述べられている。しかし、喫煙者が配偶者からの暴力を受けやすい可能性や、仕事をしている人ほどインターネット依存に陥りやすい可能性は一部コロナ禍の特有さを反映しているのではないかと研究グループは考えているという。例えば、喫煙は重症化リスク要因であると言われていることから、夫婦間の葛藤や暴力に繋がっている可能性が考えられる。また、従来インターネット依存は仕事をしていない人において傾向が見られていたが、同調査では逆の結果となっている。理由として、コロナ禍によるリモートワークの導入などにより、仕事をしている人でも1日中インターネットに触れている時間が多くなっている可能性も推察される。
これらの結果は、一時点での調査であり、直接的な因果関係まで解釈はできない。また、説明変数である家族の特性や収入の変数同士の関連についても詳細には検討できていない。そのため、結果については慎重に解釈する必要があるとしている。しかし、コロナ禍における家族支援をしていく中でのリスク評価指標として参照できる可能性はあると言える、と研究グループは述べている。
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