内分泌治療の副作用と腸内細菌叢の多様性低下に関連する疾患との類似性に着目
順天堂大学は7月15日、前立腺がんの内分泌治療(ADT)により男性ホルモンのテストステロン濃度を低下させると、腸内細菌叢に変化が生じて、その多様性が損なわれることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科泌尿器外科学の呉彰眞助手、堀江重郎教授、慶應義塾大学先端生命科学研究所の福田真嗣特任教授(研究当時。現:順天堂大学大学院医学研究科細菌叢再生学講座・特任教授)らの共同研究グループによるもの。研究成果は、「Prostate Cancer and Prostatic Diseases」のオンライン版に掲載されている。
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前立腺がんは男性が罹患するがんで最も多く、日本国内でも年間8万人以上が罹患する。転移がんや根治治療をできない場合に男性ホルモン(テストステロン)を遮断する内分泌治療が行われるが、内分泌治療では、しばしばその副作用として肥満やフレイル、骨粗しょう症、うつ、認知症などを発症することが課題になっている。
一方、腸内細菌叢の多様性や腸内細菌が産生する代謝物質が健康に大きく影響することが、近年の研究で明らかになりつつあり、腸内細菌叢の多様性の低下が、フレイル、骨粗しょう症、うつ、認知症などの疾患リスクにもなり得ることが示唆されている。そこで研究グループは今回、前立腺がんの内分泌治療によるテストステロン濃度の低下と腸内細菌叢との関連性について、調査を行った。
内分泌治療で腸内細菌叢のβ多様性低下、副作用発症に関与の可能性
研究では、内分泌治療を行った日本人の前立腺がん患者23人を対象に、血中テストステロン濃度と腸内細菌叢やその代謝物質との関連について調べた。具体的には、対象者の治療開始前2週間~治療開始後24週間の間で、定期的に便と血液をサンプリングし、次世代型シークエンサーを用いて細菌の16S rRNA遺伝子をもとにした細菌叢解析と質量分析器を用いた便中代謝物質解析を行い、治療の経過に伴うそれらの変化を調べた。
その結果、腸内細菌叢の多様性解析では、細菌叢に含まれる菌種がどのくらい豊富であるかの指標となる「α多様性」と、細菌叢に含まれる菌種同士が系統的にどのくらい似ているかの指標となる「β多様性」が、治療に伴って有意に低下していることが明らかになった。
これらのことから、内分泌治療による血中テストステロン濃度の低下によって患者の腸内細菌叢の多様性が有意に低下する関連性が明らかになった。このことは、腸内細菌叢の変化が内分泌治療の副作用の発症に関与している可能性を示唆している。
食事療法などによる内分泌治療の副作用低減に期待
今回の研究により、前立腺がん患者への内分泌治療による血中テストステロン濃度の低下によって患者の腸内細菌叢の多様性が損なわれることが明らかになり、肥満やフレイル、骨粗しょう症、うつ、認知症などの副作用の発症が腸内細菌叢の多様性の低下と関連している可能性が示唆された。
「前立腺がん患者への内分泌治療時に腸内細菌叢の多様性低下を抑制するような食事療法などを併用することで、前立腺がん患者の内分泌治療時の副作用を低減できることが期待される」と、研究グループは述べている。
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