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慢性ストレスが、SLEの「精神神経ループス」を引き起こす分子機構を発見-北大ほか

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2022年07月14日 AM10:56

睡眠不足による慢性ストレスは「NPSLE」の病態形成に関与するのか?

北海道大学は7月12日、正常マウスでは、単独で病態を誘導しない睡眠不足による慢性ストレスが、全身性エリテマトーデス(SLE)モデルマウスで、大脳特定神経核のミクログリア活性化を介した神経の異常活性化の影響で、異常行動を伴う重症化を引き起こす分子機構を解明したと発表した。この研究は、同大遺伝子病制御研究所、量子科学技術研究開発機構量子生命科学研究所、自然科学研究機構生理学研究所の村上正晃教授らの研究グループと、同大大学院医学研究院免疫・代謝内科学教室(渥美達也教授)との共同研究によるもの。研究成果は、「Annals of the Rheumatic Diseases」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

SLEは代表的な自己免疫疾患であり、さまざまな臓器の障害を起こす疾患だが、とりわけ精神神経症状は重症度が高く、なかでも気分障害、精神病、急性昏迷などのびまん性精神神経症状を示す「NPSLE」は、背景に血管障害や血液脳関門破綻、サイトカインや自己抗体の中枢神経浸潤、中枢神経細胞障害などが想定されているが、詳細な発症機序の分子機構は不明だった。

研究グループはこれまでに、重力、痛み、電気刺激、慢性ストレス、光などの環境刺激・人為的刺激が、特異的な神経回路を活性化し、特定の血管部位に炎症性疾患を誘導・制御する新たな神経系と免疫系の連関「」を発見し、報告してきた。今回の研究では「睡眠不足を介する慢性ストレスがNPSLEの病態形成に関与するのではないか」という仮説を立て、SLEのモデルマウスを用いて検証した。

SLEモデルマウスに慢性的なストレス負荷をかけ、神経活性化や遺伝子発現などを評価

研究では、マウスに2週間の睡眠不足を誘導する睡眠不足ケージを用いて、SLEモデルであるMRL/lprマウスに慢性的なストレス負荷をかけて実施した。ここで用いた睡眠不足による慢性ストレスは比較的軽度なもので、正常なマウスでは健康障害を引き起こさないものだという。MRL/lprマウスはアポトーシス誘導受容体であるFasをコードする遺伝子lprに変異を持ち、自己反応性免疫細胞が増加することで、関節炎、腎炎、中枢神経障害などの全身性エリテマトーデス様症状を示す。6~8週齢では、全身の炎症が乏しい中でも中枢神経障害は起きることが知られており、同週齢のマウスを実験に用いた。

MRL/lprマウスと対照マウス群に先述の慢性ストレスを負荷し、行動試験や行動変化に関わる脳領域の神経活性化、ミクログリア活性化、その遺伝子発現や形態学的変化について評価した。また、病態に関与している液性因子を同定し、その中和抗体や下流シグナル経路阻害薬を投与したときの行動試験、神経活性化・形態変化やミクログリア活性化について評価した。さらに、びまん性精神神経症状の有無で分けたSLE患者の髄液における同定された液性因子濃度の測定に加えて、脳MRIで関連する脳領域の体積を解析した。

慢性ストレスでミクログリア活性化・IL-12/23p40産生亢進、神経樹状突起スパイン増加

その結果、慢性ストレスは通常マウスの不安を増強するが、MRL/lprマウスでは反対に不安が減少するという「脱抑制様行動」を示すようになった。ストレスは脳領域の腹側被蓋野を活性化し、その神経投射先として内側前頭前皮質が知られており、慢性ストレスはその活性化は低下させるものの、MRL/lprマウスでは強い神経活性化を示した。

内側前頭前皮質の網羅的遺伝子発現解析により、ミクログリア活性化遺伝子の発現増加があり、髄液中において炎症性サイトカインであるIL-12/23p40の濃度上昇を認めた。また、ミクログリア活性化・IL-12/23p40産生亢進、神経樹状突起スパインの増加が認められた。このストレス誘導性の変化は、脳室内へのIL-12/23p40中和抗体投与、下流シグナル分子であるTyk2阻害薬の投与によりキャンセルされたという。

さらに、NPSLE患者では、IL-12/23p40濃度は対照健常者やびまん性精神神経症状を示さないSLE患者と比べて高値であり、内側前頭前皮質の萎縮もより高度だったとしている。

脱抑制様行動を示すNPSLE患者にIL-12/23シグナル経路を阻害する治療が有効な可能性

本研究の成果により、びまん性精神神経症状、とりわけ脱抑制様行動を示すNPSLE患者において、中枢神経症状に対する特異的治療としてIL-12/23シグナル経路を阻害する治療が有効であることが期待される、と研究グループは述べている。

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