重い後遺症を残す先天性CMV感染、バルガンシクロビルの保険承認が熱望されている
神戸大学は7月11日、2020年2月1日より、症候性先天性サイトメガロウイルス(CMV)感染児を対象としたバルガンシクロビル塩酸塩ドライシロップの有効性および安全性を評価する多施設共同医師主導治験を実施し、今般、良好な成績を得たと発表した。この研究は、埼玉県立小児医療センターの岡明病院長、日本大学医学部附属板橋病院 小児科・新生児科の森岡一朗教授、神戸大学医学部附属病院 小児科の野津寛大教授、東京大学医学部附属病院 小児・新生児集中治療部の高橋尚人教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Clinical Medicine」に掲載されている。
先天性CMV感染症は、CMVの母子感染によって、聴覚障害、発達遅延などの重い後遺症を残す可能性がある、最も頻度の高い先天性感染症。日本の年間総出生児の0.3% (約2700人/90万人出生) が先天性CMV感染で出生している。その感染児の約20%が、出生時に何らかの臨床症状を有して出生する症候性先天性CMV感染症だ。この約80%において乳幼児期に難聴や発達遅延を生じており、日本の小児に大きな疾病負荷を与えている。
CMVに対する代表的な治療薬として、経口で投与可能な「バルガンシクロビル」が存在するが、症候性先天性CMV感染症が重い後遺症を残す可能性があるにもかかわらず、世界中で保険適用がない。
抗CMV薬であるバルガンシクロビルを生後早期から投与することにより、聴力障害や発達遅延の治療、または症状進展を抑制し得ることが、日本や諸外国の臨床研究で示されている。日本では、生後3週以内の新生児尿を用いた先天性CMV感染の診断が一般診療で可能となっていることから、同薬の保険承認下での使用が熱望されている。
症候性先天性CMV感染症に対するバルガンシクロビルの有効性・安全性を評価する医師主導治験を実施
今回の治験では、後障害を引き起こす可能性の高い中枢神経障害を呈する症候性先天性CMV感染症を対象とし、バルガンシクロビル経口液剤(バルガンシクロビル塩酸塩ドライシロップ)治療の第3相多施設共同非盲検単群医師主導試験を実施した。
研究グループは、中枢神経障害を呈する症候性先天性CMV感染児を対象として、バルガンシクロビルの有効性および安全性を評価する医師主導治験を実施した。なお、一般にはプラセボを用いて治療者や被験者ともにわからないようにして比較を行うが、同治験では実薬のみを用いて中身を明らかにした非盲検単群試験で行った。
同治験は全国6つの大学病院(東京大学病院、日本大学板橋病院、名古屋大学病院、藤田医科大学病院、神戸大学病院、長崎大学病院)において、被験者の代諾者から文書により同意を取得した25人を対象とし、うち24人に対してバルガンシクロビルを1回16mg/kg、1日2回、6か月間経口投与した。投与6か月時点における全血中のCMV量(ウイルス量)の治療前からの変化、聴力障害の程度の変化を評価した。
全血中CMV量は有意に減少し聴力障害の程度も改善、悪化した症例なし
その結果、全血中CMV量(ウイルス量)は治療前と比較して統計学的に有意な減少が認められた(変化量[中央値]:-246.0 IU/mL,p<0.0001)。また、聴力障害の程度(Best ear assessment)は改善(24人中14人、58.3%)または不変であり、悪化した症例はなかったという。
バルガンシクロビルドライシロップの追加適応として、症候性先天性CMV感染症を関係当局に申請中
これまでに症候性先天性CMV感染症に対する海外での研究結果は報告されていたが、治験の厳格な基準に基づいて有効性と安全性を評価したのは今回が初となる。出生後に早期に治療介入することでCMV量を減少させることができ、難聴や精神運動発達遅延の改善あるいは進展回避により、患者の社会的予後の改善に大きな影響を及ぼすことが期待できることから、その意義は大きいと考えられる。
「今回の治験結果に基づき、症候性先天性CMV感染症の患者が正式な保険診療として本剤を使用できるようにするため、バルガンシクロビルドライシロップの追加の適応症として症候性先天性CMV感染症を関係当局に申請中だ」と、研究グループは述べている。
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