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脂肪萎縮症への長期レプチン補充療法、若年者で重症大動脈弁狭窄症を報告-東大病院

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2022年07月12日 AM10:33

ラミンA/C変異の全身性脂肪萎縮症関連早老症、16歳でレプチン補充療法開始、30代女性

東京大学医学部附属病院は7月8日、脂肪萎縮症に対して長期間のレプチン補充療法を受けた30代の女性に、若年者ではまれな重症の大動脈弁狭窄症が認められたという報告を発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科代謝・栄養病態学/同大医学部附属病院糖尿病・代謝内科の山内敏正教授、同大医学部附属病院糖尿病・代謝内科の笹子敬洋助教らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Diabetes Investigation」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

難病である脂肪萎縮症に対して、レプチン補充療法の有効性が示されてきた一方で、レプチンの炎症促進作用が長期的に及ぼす影響については、十分明らかではなかった。今回、研究グループは、ラミンA/C遺伝子の変異に伴う全身性脂肪萎縮症関連早老症に対して、長年レプチン補充療法を受けてきた30代の女性が、経カテーテル的大動脈弁留置術を要する重症の大動脈弁狭窄症を来たしたことを報告した。

同症例は10歳頃より脂肪組織の減少を自覚し、13歳時に全身性脂肪萎縮症と診断された。著明な高中性脂肪血症に因る急性膵炎を3回繰り返し、糖尿病のコントロールも悪かったことから、16歳時にレプチン補充療法を開始。高中性脂肪血症と糖尿病は改善し、以降膵炎の再発も見られなかったが、23歳時に軽症の大動脈弁狭窄症を指摘された。29歳時に感染をきっかけに心不全症状が出現し、入院を要した。その後も症状が持続するため、経カテーテル的大動脈弁留置術目的に入院となった。遺伝子解析で全身性脂肪萎縮症関連早老症の原因となるラミンA/C遺伝子の変異が見つかったが、脂肪萎縮症や心疾患の家族歴はない。

経カテーテル的大動脈弁留置術で心不全改善、以降2年間安定

入院時の身長158cmに対して体重31kgと著明な痩せを認め、心不全のマーカーであるBNPの高値と胸部X線での心拡大があり、心エコーでは引き続き高度の大動脈弁狭窄が見られた。また、レプチン注射後の血液検査で、高レプチン血症と低アディポネクチン血症を認めた。経カテーテル的大動脈弁留置術を行なったところ、心不全は著明に改善し、以降2年間にわたって安定している。

大動脈弁狭窄症は高齢者に多い疾患で、先天的な奇形以外の原因で30代までに発症することは珍しく、経カテーテル的大動脈弁留置術を必要とすることはまれだ。その危険因子として、高レプチン血症と低アディポネクチン血症が知られているが、同症例では脂肪萎縮症のためにアディポネクチンが低値を示す一方、補充療法によってレプチンは高値を呈しており、/アディポネクチン比が著明に高いものと考えられた。

危険因子として、老化促進の遺伝子変異あり・アディポネクチン低値を提唱

加えて、全身性脂肪萎縮症関連早老症では心臓の弁の異常が多く見られ、同様の経カテーテル的大動脈弁留置術などには至っていないものの、レプチン補充療法を10年以上受けて大動脈弁の石灰化が高度に進んだ症例が報告されている。このことから同症例では、加齢に伴う疾患が進みやすい早老症の遺伝的背景があったのに加え、長期間のレプチン補充療法によるアディポカインの不均衡が炎症に拍車をかけ、30代にして重症の大動脈弁狭窄症を来たした可能性が想定された。このことから脂肪萎縮症のうち、全身性脂肪萎縮症関連早老症の遺伝的背景があり、またアディポネクチンが低い場合に、長期間のレプチン補充療法が大動脈弁狭窄症と関連しうるものと考えられた。

同症例においては留置した弁の再狭窄を防ぐことが非常に重要であり、そのためにレプチンの投与量を調節し最適化することが、今後の課題として挙げられた。またアディポカインの不均衡の観点からは、レプチン単独の補充でなく、レプチンとアディポネクチンの共補充療法が実現すれば、その方が好ましい可能性が示唆された。

研究グループは、レプチン補充療法中に大動脈弁狭窄症が進行しうる危険因子として、老化を促進する遺伝子変異があること、および炎症抑制作用のあるアディポネクチンの血中濃度が低いことを新たに提唱し、「今回の報告は、脂肪萎縮症に対するレプチン補充療法の長期間にわたる安全性の確保につながることが期待される」と、述べている。

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