概日リズムの影響を受けやすいコルチゾールによる評価を実現するには?
群馬大学は7月5日、アスリートの高地トレーニングでの運動ストレスを、唾液コルチゾールの自動測定により検出する新たな方法を確立したと発表した。この研究は、同大医学部附属病院検査部の常川勝彦講師、村上正巳教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」に掲載されている。
画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
近年、アスリートのパフォーマンス向上を目的として、高地トレーニングはさまざまなスポーツで取り入れられている。その一方、低酸素への適応不良や過度なストレスなど、高地トレーニングはさまざまな健康障害もきたしうるため、この障害を適切に評価できるマーカーの実用化に期待が寄せられている。ストレスマーカーであるコルチゾールは、朝高く、夜低くなるという概日リズムの影響を受けやすいことが問題とされ、特に早朝でのストレス評価は困難だった。
研究グループはこれまでに、運動前後を含めて断続的に採取した唾液中のコルチゾール濃度を自動機器で測定する方法を開発し、この方法により強度の異なる運動ストレスを評価した成果を2020年に発表している。
唾液検体を既存の血液用の検査試薬や機器を用いて測定
今回研究グループは、群馬県内の企業であるヤマダホールディングスの陸上競技部の女子中長距離選手12人に対して、1,700~1,800mと1,300〜1,550mの標高の異なる高地合宿の際に、1日8回の唾液採取を2日間ずつ行った。それぞれの標高地において1日2回早朝と午後に走行練習を行い、練習内容は1日目に低い強度、2日目に高い強度の運動とした。採取した唾液のコルチゾール濃度は、血液検査用のエクルーシス試薬コルチゾールⅡ(ロシュ・ダイアグノスティックス)を用い、自動測定機器cobas8000(ロシュ・ダイアグノスティックス)にて測定した。
運動前後でのコルチゾール濃度の変化率を算出し、標高の異なる合宿地で比較
その結果、朝高く、夜低くなるというコルチゾールの概日リズムの中で、運動前後でのコルチゾール濃度の変化を検出することができた。早朝では概日リズムの影響を強く受けるため、標高や運動強度の違いによらず運動後にコルチゾール濃度が低下するため、午後に比べて運動後のコルチゾールの変化を捉えることが困難だ。一方で、運動前後でのコルチゾール濃度の変化率を算出し、標高の異なる合宿地で比較することにより、午後だけでなく早朝でも高い標高地での練習でコルチゾール変化率が高値を示すことが明らかとなった。
医療者がいなくても簡便に検体採取が可能、さまざまな競技への応用に期待
今回の研究で用いた方法は、唾液を用いることで、医療スタッフのいない運動環境でも簡便に検体の採取ができることから、今後さまざまな競技への応用が期待される。また、この唾液検体を既存の血液用の検査試薬や機器を用いて測定できることから、多くの医療施設でも実用化することが可能だ。「今回の研究成果は、さまざまな環境下でのアスリートの運動ストレスの評価を可能とし、その結果に基づく適切な練習プログラムの提供に貢献できることが期待される」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・群馬大学 プレスリリース