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地域精神保健サービス研究における「患者・市民参画」の可能性や課題を検証-NCNP

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2022年06月09日 AM10:02

当事者、家族、支援者、行政職員、研究者を対象にグループインタビューを実施

(NCNP)は6月3日、地域精神保健サービスの研究における「(patient and public involvement:)」の可能性や課題を検証した研究結果を発表した。この研究は、同センター精神保健研究所地域精神保健・法制度研究部の山口創生室長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Health Expectations」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

近年、医療・福祉サービスに関する研究では、当事者や家族と一緒に研究計画を作成、分析、発表をする活動の必要性が国際的に高まってきた。そのような活動は、患者・市民参画(PPI)と呼ばれており、「市民に対して・について・のための研究ではなく、市民と一緒にあるいは市民によって行われる研究」と定義されている。過去20年間、PPIに関する研究は世界中で取り組まれてきた。しかし地域精神保健サービス研究という枠組みにおけるPPIに関する研究、特に多様な立場にとって望ましいPPIのあり方を模索する研究は、国際的にも限られている。また、日本では臨床研究におけるPPIに関する研究自体が乏しい状況だ。

そこで、研究グループは、地域精神保健サービス研究におけるPPIの可能性や課題を検証することを目的に、当事者、家族、支援者、行政職員、研究者を対象としたフォーカスグループインタビューを実施し、その内容を質的に分析した。

肯定的な見解・期待の一方、全般的不安やシステムの問題の指摘

2020年2月9日にフォーカスグループインタビューを実施。インタビューには、当事者6人、家族5人、支援者7人、行政職員5人、研究者14人が参加した。インタビュー内容はすべて録音され、その逐語録をもとに質的分析が実施された。この研究自体もテーマ設定やプロトコル作成から分析・論文執筆に至る全ての段階でPPIを取り入れている。インタビューの内容は、次の4つの領域に整理された。

1.「PPIに対する肯定的な見解・期待」。PPIに取り組むことに対する前向きな視点、研究や支援の質・文化の改善、成長する機会となることへの期待についての意見があった。特に、支援の枠組みよりも、研究の枠組みのほうが協働しやすいとの提案もあった。

2.「PPIに関する全般的不安」。精神科や日本の文脈におけるPPIへの過度な期待への懸念や、研究協働の負担・抵抗感についての意見が出た。特に、形式的にPPIを装う研究の増加やPPIによる研究でも社会は変えられないことへの不安も報告された。

3.「研究機関のシステムの問題」。大学や学術団体の現行システムの問題(例:当事者の雇用)、協働する当事者・家族の選出に関する問題、関係性構築と意見集約に関するスキルの問題、PPIについての不明瞭な基準の問題に関する意見が出た。特に、当事者・家族と研究者との対等な関係構築の困難性については全ての属性グループが指摘していた。

4.「PPIの実施に向けたアプローチ」。相互理解を促すソフト面の工夫とシステムなどハード面の改革が指摘されていた。相互理解を促進する言葉の選択・雰囲気作りの工夫、実装するための評価システムや倫理審査、ガイドラインの開発についての提案が出された。

実際のPPIの実装・普及には課題が多いことも示唆

今日では、医療サービスや福祉サービス、公的機関のサービスなどさまざまな関係者が協力して地域精神保健サービスの発展に取り組んでいる。今回の研究は、そこに当事者や家族も加わることで、サービスを利用した経験のある者の視点を取り入れながら、実践課題の明確化や研究の質や文化の改善が図られ、研究知見がより有用なものになる可能性を示した。一方、研究知見の政策応用がなければ研究が社会に還元されないこと、また現行の学術システムでは当事者・家族が研究に参加しにくいこと、当事者・家族と研究者とのパートナーシップの困難性など、実際のPPIの実装・普及には課題が多いことも示唆された。日本におけるPPIの在り方について踏み込んで調査した研究はこれまで多くないことから、今回の研究の知見は、今後のPPIの取り組みに向けた基礎的資料となると考えられる。

同研究の解釈、「対象者の代表性の面で限界」があることに留意を

日本でPPIが注目されるようになったのはごく最近だ。今回の研究は、「地域精神保健サービス研究」という場面に限った調査だったが、研究の知見の一部は、他の研究領域にも当てはまる点もあると予想される。今回の研究の知見や方法論を基に、PPIおよび関連する研究がさまざまな領域で広がることが期待される。

「研究は、PPIに対するさまざまな見解を示したが、フォーカスグループインタビューの対象者は決して多くはなく、対象者の代表性の面で限界があることに留意する必要がある。今後、同様の研究が繰り返し行われる中で、今回の研究で見いだせなかったPPIの利点や限界、課題が提案されることが期待される」と、研究グループは留意点を挙げている。

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