日本の小学校児童の歩行の基準値、パーセンタイル発育曲線の作成を目的に
名古屋大学は6月1日、日本の小学校児童における歩行の基準値を作成し、歩行中の下肢の動きの年齢による差異を調査した結果、諸外国の子どもの歩行中の下肢の動きと異なることを初めて明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科総合保健学専攻の杉浦英志教授、伊藤忠客員研究者(愛知県三河青い鳥医療療育センター三次元動作解析室:動作解析専任研究員兼務)、名古屋大学医学部附属病院小児科の伊藤祐史医員、愛知県三河青い鳥医療療育センター整形外科の則竹耕治センター長、小児科の越知信彦センター長補佐らの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」オンライン版に掲載されている。
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子どもの歩行は、日常生活で重要な動作であり、個人の健康状態を反映する。したがって、歩行を評価するためには、年齢に応じた歩行を特徴づけることが重要になる。さらに、子どもの歩行の正常な発達を評価するためには基準値が必要だが、国内では基準となる参考データはない。したがって、国内の子どもにおける歩行の変化に関する参照データベースを構築することは重要だ。
歩行分析は身体機能評価の1つであり、歩行異常のスクリーニングに使用することができる。さらに歩行分析は、正常な歩行パターンと病的な歩行パターンを評価するための重要な臨床ツールであり、歩行障害の整形外科治療の介入結果の評価に使用することが可能だ。また、子どもの歩行のパーセンタイル発育曲線を作成することで、歩行の発達の軌跡からの逸脱を特定することができる。子どもの歩行の発育曲線は、学齢期の歩行の発達を評価するために使用できる可能性がある。そこで今回、日本の小学校児童の歩行の基準値を作成し、子どもの歩行のパーセンタイル発育曲線を作成することを目的として、研究を進めた。
6~12歳の子ども歩行基準値を国内初作成、小学校児童424人対象に
今回の研究は、2018年1月~2020年3月にかけて、愛知県三河青い鳥医療療育センターで運動器健診のための岡崎市児童健診に参加をした6歳~12歳(424人:男児208人、女児216人)の岡崎市内の小学校児童を対象に実施。三次元動作解析装置を使用して、骨盤~つま先に14mmの反射マーカーを貼付し、8mの歩行路を最低3回以上歩行してもらい、3回の平均値を使用した。測定した歩行中のデータから、骨盤、股関節、膝関節、足関節、つま先の向きの動きのデータを算出。さらに、これらの動きを点数化することができる指標を用いて、歩容の得点を算出した。
各年齢の歩行を比較するために、先行研究を参考に6~8歳、9~10歳、11~12歳の3つのグループに分けて、「歩行中の下肢の動き、歩容の得点」を比較。全体のデータから、歩行の基準値となるデータを作成し、歩容の得点から発育曲線を作成した。同研究で作成した、子どもの歩行のパーセンタイル発育曲線により、歩行の典型的な発達の軌跡からの特定の逸脱を容易に識別することができる。
高学年、低学年よりも歩き方がきれい
研究の結果、歩行中の下肢の動きの多くは6~12歳で類似していた。年齢が高くなるにつれて、股関節と膝関節の屈伸の動きが徐々に小さくなるが、足関節の動きにはあまり変化がないことが示された。11~12歳の子どもは、足が地面から離れた時の膝が曲がる最大角度が小さく、歩行中の膝の可動域も少ないことが判明。
また、歩容の得点は、6~8歳よりも11~12歳で高く、低学年よりも歩き方がきれいであることが示された。
諸外国と比べ、日本の小学校児童の歩行中の股関節の動きは軽く内股
諸外国のデータと比べてみると、日本の小学校児童は、歩行中の股関節の動きは軽く内股で、高学年になってもその動きは大きく変化せず、諸外国の研究結果とは異なることが明らかになった。
また、歩幅や1分間当たりの歩数などの年齢による変化は、世界共通と思われるが、成長の影響を考慮するために正規化すると、諸外国のデータとは若干異なり、高学年になると歩幅は短くなり、1分間当たりの歩数も増加することが認められた。
このことから、作成された子どもの歩行の基準値と歩行のパーセンタイル発育曲線は、子どもの現状の歩き方を把握することを可能にし、子どもの歩行障害の治療効果判定の発展に貢献することができるとしている。
歩行障害の整形外科治療とリハビリ効果判定への使用に期待
今回作成された歩行分析のデータベースは、今後子どもを対象とした歩行研究において価値があるという。また、同研究の結果は、正常な歩行と病的な歩行を評価するための重要なツールになり、子どもの歩行の状態を確認できるだけでなく、歩行障害の整形外科治療とリハビリテーションの効果判定に使用することができる、と研究グループは述べている。
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