前頭前皮質や扁桃体を標的として、社会性行動と神経活動の関連を調査
東北大学は5月26日、マウスを用いて、他の動物と関わるような社会性行動時に前頭皮質や扁桃体などの脳の部位から生じる電気シグナル(脳波)の測定を行った結果、マウスが社交性を示す時にのみ顕著に増減する特徴的な脳波のパターンを発見したと発表した。この研究は、同大大学院薬学研究科の佐々木拓哉教授と久我奈穂子研究員、東京大学大学院薬学系研究科の池谷裕二教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「eLife」にオンライン掲載されている。
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動物にとって、他者とかかわるための社会性行動(社交性)は重要だ。社会性は、個々の動物における、これまでの発達過程や経験、その場の情動、不安感といった精神状態など、さまざまな要素が総合して決定される複雑な性格であり、脳のメカニズムはほとんど明らかにされていなかった。一方、これまでの多くの研究から、その構成要素である情動や不安には、前頭前皮質や扁桃体が重要であることは、すでに知られていた。
そこで、研究グループは今回、これらの脳部位を標的として、社会性行動と神経活動の関連について詳細に調べることにした。
マウスの前頭皮質や扁桃体で顕著に生じる、「社会性行動」にかかわる新しい脳波を発見
マウスはヒトと同様、他者に対してさまざまな社会性行動(接触や共感)を示すことから、実験動物モデルとしてマウスを用いた。まず、マウスの前頭前皮質と扁桃体に金属で電極を埋め込み、これらの脳部位から生じる電気シグナル「脳波」を計測した。脳波は、多数の脳神経細胞の集合的な活動として生じ、さまざまな周波数帯の電波から形成される。この波が、覚醒や注意などさまざまな脳の状態を反映しており、ヒトとマウスでも多くの性質が共通している。
目的のマウスが他者と社会相互作用する時間をビデオで検出し、脳波を解析したところ、前頭前皮質と扁桃体では、4-7 Hzの周波数帯の脳波が減弱し、逆に30-60 Hzの脳波が増強していた。
うつ病やASDモデルマウスでは社会性行動が減り、これらの脳波が減弱
次に、マウスに慢性的なストレスを負荷し、うつ様の症状を示すマウスを作成。また、自閉スペクトラム症の症状を示す遺伝子改変マウスも作成した。こうしたマウスでは、社会相互作用をほとんど示さず、同時に、研究グループが発見した脳波パターンもほとんど観察されなくなった。そこで、このような脳波パターンに特化して、その強弱を人工的に操作するための新しい遺伝子改変技術・光操作技術を開発。同技術を、上述のような社会性が低下したマウスに適用し、脳波パターンを正常マウスと同様レベルに回復させたところ、マウスの社会性行動が回復したという。
社会性低下を呈する疾患の治療法開発などへの貢献に期待
今回の研究成果により、前頭前皮質と扁桃体の新しい脳波パターンが、社会性行動の脳メカニズムとして働いていることが示唆された。今後は、こうした脳波の増減を一つの標的として、社会性低下を呈するような疾患などの治療法考案に貢献できると期待される。
「社交性は、こころの状態とも密接にかかわる重要な性格だ。将来的に今回の発見は、社交性を反映した脳活動の指標の一つとして、他者とのコミュニケーションを円滑に図るための「多様なこころの状態の読み取り」を可能とする新しい技術開発にも貢献できると期待される」と、研究グループは述べている。
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