低栄養状態がサルコペニア発症の危険を増加させるのか、「NRI-JH」を用いて調査
大阪公立大学は5月23日、血液透析患者において、栄養状況と筋肉量が減少し筋力が低下するサルコペニアが関連することを発見したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科代謝内分泌病態内科学の藏城雅文講師、腎臓病態内科学の森克仁准教授、代謝内分泌病態内科学/腎臓病態内科学の繪本正憲教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Frontiers in Nutrition」にオンライン掲載されている。
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血液透析患者では、高頻度に低栄養状態にあり、さらにサルコペニアも高頻度に発症していることが知られている。これまで、低栄養状態はサルコペニア発症の危険を増加させるのではないかと考えられていたが、実際にそのような関係を調べた報告はほとんどなかった。その理由は、特に透析患者において、栄養状況を評価するゴールドスタンダートと呼べる診断基準がなかったことや、サルコペニアの判定に必要な骨格筋量の計測は、設備が整った機関でないと受けることが難しいことなどが挙げられる。
そこで、研究グループは、日本透析医学会学術委員会栄養問題検討ワーキンググループで開発された簡便な栄養指標「NRI-JH」とサルコペニアの関連について調べることで、栄養状況がサルコペニアと関連することを明らかにできるのではないかと考えた。
低栄養患者ではサルコペニアのリスク2.96倍、重症サルコペニアのリスク2.24倍
研究では、315人の血液透析患者を対象に、栄養指標であるNRI-JHとサルコペニアとの関連を調べた。NRI-JHは、BMI、血液中のアルブミン、クレアチニン、総コレステロールにより評価するもの。サルコペニアの評価には、「アジアサルコペニアワーキンググループ(AWGS)2019」の診断基準を用いた。具体的には、骨格筋量をDXEA法(二重エネルギーX線吸収測定法)、筋力を握力計、身体機能を5回椅子立ち上がりテストにより評価した。サルコペニアは「骨格筋量の低下」+「筋力の低下もしくは身体機能の低下」、重症サルコペニアは「骨格筋量の低下」+「筋力の低下および身体機能の低下」により判定した。
その結果、中/高リスク群(低栄養患者)では、骨格筋量の低下、筋力の低下、身体機能の低下の有病率が有意に高値であり、サルコペニア、重症サルコペニアの有病率も有意に高値であることが明らかになった。また、サルコペニア、重症サルコペニアの危険因子を考慮(危険因子で調整)しても、中/高リスク群(低栄養患者)は、低リスク群に比べ、サルコペニアのリスクが2.96倍、重症サルコペニアのリスクが2.24倍高いことが明らかになった。
NRI-JHを用いることが、サルコペニアの発症・進展防止の治療戦略につながることに期待
今回の研究成果は、血液透析患者において、栄養状況がサルコペニアと関連することを明らかにするものであり、さらにNRI-JHを用いることで、サルコペニアの発症防止、早期発見・治療、生命予後の改善につながることが期待される。
「低栄養状態はサルコペニアと関わるという考えは、古くからあったが、実際にそのような関係を調べた報告はほとんどなかった。本研究により、栄養状況がサルコペニアと関わることが明らかになったことで、栄養状況をターゲットとしたサルコペニアの発症・進展防止の治療戦略につながることを期待している」と、研究グループは述べている。
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