一次運動野ではなく、補足運動野へのtDCSによる影響を検討
畿央大学は5月9日、脳卒中患者1人を対象に、歩行トレーニング時に損傷側の補足運動野への経頭蓋直流電気刺激(tDCS)を1週間併用する研究を行い、歩行時の麻痺側下肢で体重支持する際の皮質脊髄路の興奮性と歩行安定性を高めることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院博士後期課程の蓮井成仁氏(宝塚リハビリテーション病院)、森岡周教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Brain Sciences」に掲載されている。
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多くの脳卒中者は運動機能が低下し、日常生活動作や移動に対するリハビリテーションを経験する。運動機能の回復は、運動に関連する脳領域(一次運動野および補足運動野)の回復に強く影響を受ける。特に、重度な運動麻痺を有する脳卒中者は、補足運動野を介した皮質脊髄路が運動機能回復に重要であるといわれている。経頭蓋直流電気刺激(tDCS)は、非侵襲的に大脳皮質活動を高める方法として用いられている。しかし、多くのtDCSを用いた先行研究が、皮質脊髄路の主な起源である一次運動野を刺激しており、補足運動野へのtDCSが歩行中の皮質脊髄路活動や歩行パフォーマンスへ及ぼす影響は明らかになっていない。
損傷側の補足運動野へのtDCSを併用した歩行トレーニングは歩行安定性に影響
研究の対象は、介助なく歩行可能な脳卒中患者1人。脳卒中発症後137日が経過していたが、Brunnstrom recovery stage ⅡおよびFugl-Meyer Assessmentの下肢シナジー項目6点であり、重度な運動麻痺を有していた。
ABデザイン(フォローアップ)で行い、A期では通常の歩行トレーニングのみを行い、B期では損傷側の補足運動野へのtDCSを併用した歩行トレーニングをそれぞれ1週間実施した。フォローアップ期間は2週間実施した。歩行評価は、歩行パフォーマンス(歩行速度および歩行周期変動)、前脛骨筋の筋活動および筋内コヒーレンス(β帯域;皮質脊髄路の興奮性を反映)とした。
結果、歩行速度の変化はA期ならびにB期ともに0.03m/sであり、歩行周期変動(低値ほど良い)の変化はA期で0.66%、B期で–2.23%。tDCSを併用した歩行トレーニングは、歩行速度より歩行の安定性に影響を与えていたことがわかった。
遊脚期ではなく立脚期での皮質脊髄路の興奮性を増大
遊脚期におけるコヒーレンス値は、A期およびB期、フォローアップとの間に明らかな変化は見られなかった。特に、B期の開始時(0.66(×10-3))は、A期(0.36(×10-3))に比べて増加したが、B期の終了時(–0.30(×10-3))とフォローアップ(–0.90(×10-3))には減少していた。この結果から、tDCSを用いて補足運動野の興奮性を高めても、遊脚期における前脛骨筋への皮質脊髄路の興奮性にはほとんど影響しないことが考えられた。
一方で、立脚期におけるコヒーレンス値は、B期においてA期やフォローアップと比較して明らかな変化を認めた。特に、B期(0.009ならびに0.024)は、A期(-0.005)に比べて明らかに増加しました。フォローアップは、B期と比較して減少していた(-0.044)。この結果は、補足運動野の興奮性を高めることは、立脚期における前脛骨筋への皮質脊髄路の興奮性に影響を与えることを示した。
多くの症例を対象に歩行パフォーマンスへの影響を検証
この研究では、重度な運動麻痺を有する脳卒中者を対象に、補足運動野へのtDCSを併用した歩行トレーニングが、歩行時の皮質脊髄路の興奮性ならびに歩行パフォーマンスに及ぼす影響について検証した。結果として、tDCSの併用は麻痺側立脚期における皮質脊髄路の興奮性と歩行安定性を改善することがわかった。「今後は多くの症例を対象に、運動麻痺の重症度に合わせて運動関連領野(一次運動野ならびに補足運動野)の活動を選択的に増大させることがどの歩行パフォーマンスに影響を及ぼすのかについて検証していく必要がある」と、研究グループは述べている。
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・畿央大学 プレスリリース