急性/慢性患者サンプルをシングルセルRNAシークエンスで比較
神戸大学は5月3日、シングルセルRNAシークエンス解析を用いて、急性冠症候群(不安定狭心症や急性心筋梗塞)の冠動脈プラークにおいて骨髄球系の免疫細胞の特徴を捉えることに成功したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科内科学講座循環器内科学分野の江本拓央医学研究員、山下智也准教授、平田健一教授らの研究グループが、姫路循環器病センター(神戸大学連携大学院)との共同研究として行ったもの。研究成果は、「Circulation」に掲載されている。
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近年の急速な分析技術の進歩により、対象とする組織について、1細胞ごとに網羅的に遺伝子発現を解析することのできるシングルセルRNAシークエンス解析技術が開発され注目を集めている。これまで頸動脈の動脈硬化プラークについてはシングルセルRNAシークエンス解析が行われたが、冠動脈プラークについてはサンプルが得難く報告がなかった。動脈硬化の形成に炎症が深く関わることは明らかにされてきたが、実際のヒトにおいて冠動脈プラーク内にはどのような特徴を持つ免疫細胞が存在し、また急性冠症候群の発症に作用しているのかははっきりとはわかっていなかった。
今回、研究グループは、2020年10月から2021年6月にかけて、姫路循環器病センターで方向性冠動脈粥腫切除術の適応となった患者のうち、研究に同意した慢性冠症候群4例と急性冠症候群3例に対してシングルセルRNAシークエンス解析を実施した。
急性は慢性と比べて単球・肥満細胞・炎症性マクロファージが多く集積
その結果、骨髄球系の細胞は3つのマクロファージの集団、単球、肥満細胞、樹状細胞の集団に分けることができた。さらに、慢性冠症候群と急性冠症候群を比較すると、急性冠症候群では、慢性冠症候群と比べ、単球や肥満細胞またCXCL3やIL1Bを強発現する炎症性マクロファージが集積していることがわかった。
今回の研究では、急性冠症候群患者の冠動脈プラークにおいて、単球や肥満細胞、またCXCL3やIL1Bを強発現する炎症性マクロファージが集積するという骨髄球系の免疫細胞の特徴を捉えることに世界で初めて成功した。「今後、このデータをもとにした冠動脈プラークの安定化を目指した治療法の開発が期待される」と、研究グループは述べている。
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