NMN摂取で加齢に伴うNAD+の低下を回復、動物実験で
東京大学医学部附属病院は5月1日、健常な高齢男性を被験者として、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)の前駆体であるニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)を経口摂取した場合に、筋力低下を始めとした老化現象に与える影響についての無作為化プラセボ対照二重盲検並行群間比較試験を行い、その結果を発表した。この研究は、同大病院糖尿病・代謝内科の五十嵐正樹助教、中川佳子医師、三浦雅臣医師、山内敏正教授の研究グループによるもの。研究成果は、「NPJ Aging」オンライン版に掲載されている。
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老化や糖尿病、心血管疾患、がん、アルツハイマー病などの加齢に伴う疾患の発症には、NAD+の組織内濃度の低下が密接に関連している。これまでに、NAD+の前駆体であるNMNを摂取することで加齢に伴うNAD+の低下を回復し、老化に関連する疾患の予防が可能となることが多くの動物実験で示されていた。しかし、ヒトにおいてはNMNの摂取と加齢への影響はよく知られていないのが現状だった。そこで研究グループは、高齢者がNMNを摂取した場合の安全性と有効性を明らかにするために、プラセボ対照無作為化二重盲検並行群間試験を計画した。
65歳以上の健常男性42人対象、NMN250mg/日を摂取
65歳以上の健常高齢者男性42人をNMN摂取群(250mg/日)とプラセボ摂取群にランダムに割り付け、NMNあるいはプラセボの摂取を最長12週間行った。臨床試験は2019年に東京大学医学部附属病院のPhase1ユニットにて施行された。
参加者は6週間(NMN群n=21、プラセボ群n=21)あるいは12週間(NMN群n=10、プラセボ群n=10)摂取。一般血算(赤血球、白血球、血小板などの数)、生化学検査項目の変化、全血におけるNAD+の変化、筋力の変化(30秒間椅子立ち上がりテスト、歩行速度、握力)、生体インピーダンス法による体組成の変化、CTによる脂肪肝、内臓脂肪量の変化、聴力変化などについて評価を行った。
12週間の経口摂取後NAD+と関連代謝物の血中濃度上昇、有害事象を認めず
その結果、最長12週間のNMN経口摂取では、血液検査の結果を含めて明らかな有害事象は認められなかった。NMN群は、プラセボ群と比較して、NAD+およびNMNなどのNAD+前駆体の血中濃度が効果的に上昇した。
NMNの経口摂取が健康な高齢男性の骨格筋量に及ぼす影響を調べるため、主要評価項目として骨格筋量指数と部位別筋肉量を測定し、NMN群とプラセボ群の開始前、6週目、12週目の平均値を混合効果モデルおよびmixed-effect model for repeated measures(MMRM)という統計解析手法を用いて評価した。その結果、いずれの解析においても、骨格筋量変化に有意な差は認められなかった。
歩行速度や握力などが改善
運動機能を調べるために、歩行速度、30秒椅子立ち上がりテスト、握力を評価し、同じ統計手法を用いて分析した。その結果、混合効果モデルまたはMMRMにより、NMN摂取後に歩行速度および左握力テストの有意な改善が認められた。
これらの結果から、継続してNMNを経口摂取した場合、骨格筋量には影響を与えないものの、健康な高齢男性の運動機能を向上させることがわかった。また、歩行速度については、6週間後と12週間後の各群の平均値の間に有意な差が認められた。さらに、6週間後の30秒椅子立ち上がりテストにおいても、プラセボ群とNMN群の間に有意差が認められた。
臨床試験で評価したその他の評価項目については、NMN摂取群で有意な変化を認めるような項目はなかったが、右聴力においては、統計的に有意ではないものの、改善する傾向が認められた。
NMN内服による抗加齢効果、サルコペニアの予防効果に期待
健康な高齢男性が1日あたり250mgのNMNを12週間摂取した場合、継続して安全に摂取することが可能であること、血液中のNAD+およびNAD+関連代謝物が有意に増加することが確認された。その結果、NMNが筋力とパフォーマンスを改善することが明らかとなった。したがって、NMNを継続的に経口摂取することは、サルコペニアのような加齢に伴う筋力低下の予防において大変有効な手段であると考えられる。「今後、ますますの超高齢化社会を迎えるにあたり、高齢者を対象としたNMN内服による抗加齢効果が、健康寿命の延長・社会全体の生産性の向上に寄与することが期待される」と、研究グループは述べている。
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