75歳以上で脳梗塞/TIA既往を有する患者、ワルファリンとDOACの各イベントリスクを比較
国立循環器病研究センターは4月21日、日本人の脳卒中/一過性脳虚血発作(以下、TIA)の既往を有する75歳以上の高齢非弁膜症性心房細動患者では、脳卒中/TIAの既往を有さない患者と比べて、有意にその後の虚血/出血性イベントが多く、脳梗塞/TIAの既往を有する患者においては、ビタミンK拮抗薬(ワルファリン)と比して、直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)内服患者の方が有意に出血性イベントのリスクが低かったことを明らかにしたと発表した。この研究は、同研究センター脳神経内科の吉本武史医師、豊田一則副院長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Stroke」に掲載されている。
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脳梗塞発症・再発予防における抗凝固療法の課題は、虚血性イベントの予防と出血性合併症のリスクのバランスを保つことだ。加齢に伴い、脳梗塞および脳出血の発症リスクが増加することが知られている。しかし、脳卒中/TIAの既往を有する高齢非弁膜症性心房細動患者におけるイベントの発生率とその危険因子に関する研究は限られている。
All Nippon AF In Elderly(ANAFIE)Registryは、日本の実臨床における高齢非弁膜症性心房細動患者の抗凝固療法および臨床転帰の実態を明らかにするために、75歳以上の非弁膜症性心房細動患者を登録した多施設前向き観察研究。同サブ研究の目的は脳卒中/TIA既往の有無によるイベント発現率の違いを明らかにすることとした。
登録期間は2016年10月~2018年1月。対象は、非弁膜症性心房細動を有する75歳以上の患者3万2,275例(女性42.7%、平均年齢±標準偏差、81.5±4.8歳)とし、脳卒中/TIAの有無で対象を2群に分けた。各群における2年の追跡期間中の脳卒中/全身性塞栓症、大出血および全死亡に対して、発現率をKaplan-Meier法より推定し、ハザード比をCox比例ハザードモデルより解析。また、脳梗塞/TIAの既往を有する患者において、ワルファリンとDOACの各イベントリスクを比較した。
脳卒中/TIA既往有する患者、脳卒中/全身性塞栓症、大出血、全死亡リスク高
研究対象の内、7,304人(22.6%)が脳卒中/TIAの既往を有していた。脳卒中/TIAの既往を有する患者は有さない患者と比べて男性が多く、脳卒中/全身性塞栓症(調整ハザード比2.25,95%信頼区間1.97–2.58)、大出血(1.25,1.05–1.49)、全死亡(1.13,1.02–1.24)のリスクが高い結果だった。
脳梗塞/TIA既往有する患者、DOAC内服例で出血性イベントリスク「低」
また、脳梗塞/TIAの既往を有する患者6,446例の内、登録時に4,393例(68.2%)がDOACを内服しており、1,668人(25.9%)がワルファリンを内服していた。
その後の脳卒中/全身性塞栓症のリスクは、これら2つのグループ間で同等だった(0.90,0.71–1.14)が、大出血(0.67,0.48–0.94)、頭蓋内出血(0.57,0.39–0.85)、および心血管死(0.71,0.51–0.99)は、DOACを内服している例で有意にリスクが低い結果だった。
特に出血リスクが高い患者、DOAC内服が望ましい
今回の研究は3万人以上の高齢非弁膜症性心房細動患者を登録している世界有数の大規模レジストリ。75歳以上の高齢非弁膜症性心房細動患者が、脳卒中/TIAの既往を有すると、有さない場合と比べて虚血/出血性イベントの発症リスクが高くなるため、抗凝固薬の内服の継続の判断などにおいて注意が必要だ。
脳梗塞/TIAの再発予防において、DOACはワルファリンと比べて有意に出血性イベントが少なく、特に出血リスクが高い患者にはDOACの内服が望ましいと考える、と研究グループは述べている。
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・国立循環器病研究センター プレスリリース