社会経済状況による健康格差の拡大が懸念される
神戸大学は4月5日、コロナ禍における身体活動の実施状況に社会経済的な格差があることを突き止めたと発表した。この研究は、同大大学院人間発達環境学研究科の喜屋武享助教、琉球大学医学部の高倉実教授によるもの。研究成果は、「Public Health」にPre-proofとして掲載されている。
画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
十分な身体活動は、精神障害を含む慢性疾患や死亡リスクを抑えることが知られている。この身体活動の恩恵を人々が公平に享受できることが理想である。しかし、身体活動をはじめとする健康行動には、収入や学歴などの社会経済状況による格差が生じている(健康格差)ことが以前から指摘されてきた。すなわち、低収入や低学歴の人ほど不健康であるということを意味する。新型コロナウイルス感染症の蔓延により、観光業や飲食業などの特定の業種は経済的な打撃を受け、公衆衛生分野では、これによる健康格差の拡大が懸念されている。
コロナ禍における国民の身体活動の実態や運動に対する意識は、政府によるweb調査やスマートフォンアプリの歩数データ等を用いた大規模データから、コロナ以前と比較してむしろ良好な方向に遷移したことが報告されている。しかし、これらの情報は調査方法の特質上、社会経済状態が脆弱な人々のデータを反映していない可能性があった。言い換えると、支援が必要な人々の実情を捉えられていない可能性があるということである。
仕事、余暇、移動に関する身体活動や座位行動において、所得や学歴による格差
研究グループは、笹川スポーツ財団が人口割合や地域規模を考慮した精緻な調査法により収集したデータ(スポーツライフデータ)を用いて、コロナ禍における身体活動格差の実態究明に迫った。分析では、格差勾配指標・格差相対指標という、社会経済状態を指す要因(今回の研究の場合、所得と学歴)の各カテゴリーにおける人口割合の違いを考慮した格差指標を用いた。
その結果、仕事、余暇、移動に関する身体活動や座位行動において、所得や学歴による格差が認められた。その中でも余暇の身体活動は格差が大きく、低所得/低学歴ほど少ないことがわかった。
また、仕事の身体活動は、他の場面の身体活動とは逆に、低学歴ほど長いことがわかった。仕事の身体活動が長いことは心疾患などの危険性が高まることが示唆されていることから、公衆衛生の観点からは良くないことと解釈される。
研究により、健康格差の実態を継続的にモニタリングし、経年変化を追う必要性が示された。「政策の方向性を検討する上で一つの参考資料になることを期待している」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・神戸大学 研究ニュース