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悪性リンパ腫、非血液細胞の「単一細胞アトラス」作成で新知見を複数発見-筑波大ほか

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2022年04月01日 PM12:15

希少な非血液細胞の変化についての解析は十分に進んでいなかった

筑波大学は3月25日、ヒトの正常リンパ節と悪性リンパ腫のリンパ節病変の非血液細胞について、単一細胞レベルで遺伝子発現解析を行うことで、それらの全容についてアトラスを作製し、その結果、正常リンパ節、悪性リンパ腫とも、血管・リンパ管・間質細胞について、それぞれ10種類、8種類、12種類、合計30種類の細胞サブタイプを同定したと発表した。この研究は、同大医学医療系の坂田(柳元)麻実子教授、千葉滋教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Cell Biology」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

悪性リンパ腫は、リンパ節などのリンパ組織から発生する血液がんであり、血液がんの中では最も頻度が高く、国内外で増加傾向にある。主に腫瘍細胞に対する抗がん剤治療の開発が進んだことで、悪性リンパ腫の治療成績は向上してきたが、多くの悪性リンパ腫は依然として根治が困難であるため、腫瘍細胞に加えて腫瘍細胞の周囲にあるさまざまな種類の細胞(微小環境細胞)の変化が治療ターゲットとして注目を集めている。微小環境細胞のうち、固形がん領域においては非血液細胞の変化が腫瘍の増大に寄与すると考えられている一方、悪性リンパ腫においては、限られた少数の報告によって非血液細胞の役割が示唆されているのみで、希少な細胞である非血液細胞の変化についての解析は十分に進んでいなかった。

連携・協力して患者サンプルを集積し、非血液細胞の包括的かつ詳細な解析を実施

また、近年、遺伝子発現を単一細胞ごとに解析するシングルセルRNAシーケンスの技術を用いることで、人体のさまざまな組織の多様性が明らかにされているが、悪性リンパ腫の主要な発生臓器であるリンパ節の非血液細胞成分の大部分が、この技術では未解析の状態であり、リンパ節と悪性リンパ腫の間での非血液細胞の単一細胞レベルでの詳細な比較解析が難しい状況だった。リンパ節は、全身に張り巡らされたリンパ管をつなぐ5mm程度以下の小さな臓器で、リンパ管に入り込んだ細菌やウイルス、がん細胞などの異物を捉え、排除する重要な免疫学的機能を担っており、リンパ節内の非血液細胞はその機能を維持・調整する上で重要な役割を果たしている。そのため、免疫学研究やがん免疫研究の観点からも、リンパ節における非血液細胞の包括的かつ詳細な解析が望まれていた。

リンパ節と悪性リンパ腫検体は、臨床現場から研究のために十分な量を採取できる機会が少ないために、これまで世界的に研究が進んでこなかった背景がある。そこで今回、研究グループは、複数の診療科および協力病院との連携により患者サンプルを集積することで、上記の課題に取り組んだ。

リンパ節と濾胞性リンパ腫の非血液細胞のシングルセルRNAシーケンスを実施

研究グループはまず、筑波大学附属病院と協力病院から収集したヒト検体を用いて、非血液細胞を抽出し、シングルセルRNAシーケンスを実施。リンパ節検体は、固形腫瘍に対するリンパ節郭清術を受けた患者のリンパ節検体のうち、腫瘍転移がないことを確認した9つの臨床検体を使用した。リンパ腫検体は、過去の研究により最も非血液細胞に関する知見が蓄積されている濾胞性リンパ腫を主要な解析対象(10検体)とし、過去の知見を検証しながら新規の知見を探索した。

3つの分画とその複数のサブタイプを発見、単一細胞アトラスを構築

ヒトリンパ節と濾胞性リンパ腫の非血液細胞に対して実施したシングルセルRNAシーケンスの遺伝子発現情報を統合し、クラスタリング解析により分類を試みたところ、3つの非血液細胞の大きな分画(血管内皮細胞、リンパ管内皮細胞、非内皮性間質細胞)があり、それらはさらにそれぞれ10種類、8種類、12種類の異なったサブタイプに細かく分かれることを発見。こうして、ヒトリンパ節非血液細胞の単一細胞レベルのアトラス(単一細胞アトラス)を構築した。

悪性B細胞と非血液細胞との細胞間相互作用など、サブタイプごとに調節はさまざま

研究グループは次に、それぞれのサブタイプの存在とリンパ節内での局在を、免疫染色法により病理学的に確認し、遺伝子発現データからそれらの細胞の発生要因や機能について推定した。単一細胞アトラスを用いて、濾胞性リンパ腫における腫瘍細胞である悪性B細胞と非血液細胞のデータについて、包括的な比較解析を行ったところ、遺伝子発現変化のパターンはそれぞれの非血液細胞サブタイプによって大きく異なっていることが明らかとなり、リンパ腫の非血液細胞では報告されていない発現変化も多数観察された。

一部の発現変化は、固形がんの間質細胞においてもがん形成を促進することが知られているものも含まれていた。また、悪性B細胞と非血液細胞との細胞間相互作用の変化も、サブタイプごとにさまざまに調節されていることがわかった。

患者予後に関連する因子も発見、今後の研究の発展に期待

さらに、この遺伝子発現の変化のデータセットと、過去に公開されている濾胞性リンパ腫のマイクロアレイ解析のデータセットを組み合わせることで、非血液細胞に由来する遺伝子発現の変化のうち、患者予後に関連する因子(LY6H、LOX、TDO2、REM1)を抽出することに成功。加えて、この単一細胞アトラスを用いた非血液細胞の解析は濾胞性リンパ腫以外のリンパ腫タイプの解析にも適用可能であることが確認された。

今回の研究は、世界で初めて、ヒトのリンパ節と悪性リンパ腫の非血液細胞に対して包括的にシングルセルRNAシーケンスで解析を行ったもの。今回構築された単一細胞アトラスは、ヒトリンパ節の非血液細胞の分類学をアップデートするものであり、今後のがん研究、免疫学研究などへの幅広い応用が期待される。また、悪性リンパ腫の非血液細胞との詳細な比較解析により、悪性リンパ腫研究に有用な遺伝子発現データセットを構築した。このような遺伝子発現や細胞間相互作用の変化についての知見、抽出された予後因子は、新たな治療や予後予測システムの開発に広く役立つものと考えられる。

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