転移指向性を決める重要な分子ケモカイン、リンパ節転移とどう関わるか
近畿大学は3月16日、細胞移動を誘導するケモカインの役割を解析することで、乳がん細胞のリンパ節転移につながるメカニズムを解明したと発表した。この研究は、同大理工学部生命科学科の早坂晴子准教授らの研究グループによるもの。「Cancer Science」にオンライン掲載されている。
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腫瘍内にはがん細胞だけでなく非がん細胞も多く存在し、そこから産生されるケモカインや腫瘍増殖因子がシグナルを送ることで、がん細胞の増殖や転移を助ける。ケモカインは、細胞の組織への移動に関わる重要な分子。がん組織ではいくつかのケモカインが発現し、原発巣での細胞増殖やリンパ節転移を促進させることがわかっている。しかし、ケモカインががん細胞に対してそれぞれどのように作用し、リンパ節転移を促進するのかについては不明であり、詳細な解析が求められている。
乳がん細胞株移植マウスでCXCL12は腫瘍間質に、CCL21はリンパ管周囲に発現
研究グループはまず、ヒト乳がん細胞株MDA-MB-231細胞から、リンパ節に高頻度で転移する乳がん細胞株を樹立した。このリンパ節高転移細胞株では、元の細胞株に比べて、CCL21(受容体CCR7に結合するケモカイン)で誘導される高分子膜への浸潤能の活発化、およびマウス転移モデルでCCR7依存的なリンパ節転移の活発化がみられたことから、CCL21とその受容体CCR7によってリンパ節転移が調節されることがわかった。
リンパ節ではCXCL12とCCL21が共に発現しており、がん細胞のリンパ節転移との関連が示唆されている。そこで、細胞遊走と高分子膜への浸潤能に対するこれらのケモカインの協働性を解析したところ、乳がん細胞をCXCL12で前処理した場合にCCL21に対する応答性が上がることが明らかになった。
これまでに研究グループの先行研究から、CCL21に対する応答性はCCR7の二量体化で調節されることが明らかになっている。そこで、乳がん細胞におけるCXCL12前処理の影響を解析したところ、CCR7の二量体化が促進されるとともにCCL21の結合能が上昇することがわかった。さらに、乳がん細胞株を移植したマウスで形成された腫瘍組織を解析したところ、CXCL12は腫瘍間質に発現し、CCL21はリンパ管周囲に発現することもわかった。
CXCL12ががん細胞に作用することで、CCL21の細胞移動を誘導、リンパ節転移に
次に、人工的な生体組織モデルを用いて、乳がん細胞移動におけるケモカインの効果を解析したところ、乳がん細胞をCXCL12で前処理した場合に、CCL21が集中するリンパ管周囲に細胞が局在することが明らかになった。以上のことから、CXCL12がCCL21に対する細胞応答性を促進し、リンパ管周囲に乳がん細胞が移動しやすくなることで、リンパ節転移が活発化する可能性が示唆された。
研究グループは「今後、さまざまながんにおいてケモカインの種類と役割を解析することで、がん転移の詳細が明らかになると期待される」と、述べている。
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