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腎不全の脳梗塞病型と退院時機能転帰の関連を解明、大規模調査研究より-国循ほか

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2022年03月11日 AM11:30

心血管病や心血管死の危険因子、

国立循環器病研究センターは3月10日、同研究センターの豊田一則副院長が代表を務める国内多施設共同の脳卒中急性期患者登録事業、日本脳卒中データバンク(Japan Stroke Data Bank: JSDB)の登録情報を用いて、腎不全患者における脳梗塞病型と退院時機能転帰の関連を解明したと発表した。この研究は、同研究センター脳血管内科の三輪佳織医師、古賀政利部長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Neurology」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

腎不全は、脳卒中を含む心血管病や心血管死の危険因子。腎不全患者は、、糖尿病などの血管危険因子の合併が高頻度であることや、腎機能低下に由来する全身状態の変化と相まって、動脈硬化の進行や血液凝固系に影響し、脳卒中発症リスクを高めることが考えられている。脳卒中のうち、脳梗塞は75%を占める最大の病型。その発症機序は多様であり、主な脳梗塞病型は心原性脳塞栓症、アテローム血管性脳梗塞、小血管梗塞(ラクナ梗塞)、その他の脳梗塞や原因不明脳梗塞に分類されている。脳梗塞の病型診断は、二次予防の治療方針を決定する上でも重要であり、詳細な検査と的確な診断が鍵となっている。腎不全患者に関連する脳梗塞病型やその臨床的影響について、これまでに大規模な報告はない。

2016~2019年JSDB登録の急性期脳梗塞症例のうち、入院時血液検査が入力された患者個別データを対象に

今回の研究では、JSDBの2016~2019年までに登録された急性期脳梗塞症例のうち、入院時血液検査が入力された患者個別データを対象とした。血清クレアチニン値から、腎機能の指標である推定糸球体濾過量(eGFR)を算出し、eGFR 60ml/min/1.72m2以下、またはタンパク尿(尿定性+1以上)の陽性を「腎不全の既往あり」と分類。腎不全の重症度は、国際腎臓病ガイドラインであるKDIGO(Kidney Disease: Improving Global Outcome)の重症度分類に基づき、GFR正常もしくは軽度低下;eGFR≥60,軽度~中等度低下;45-59,中等度低下;<45(mL/min/1.73m2)に分類した。さらに、透析療法の有無に関するデータ項目から、透析患者を分類した。eGFR≥60mL/min/1.73m2またはタンパク尿陰性である「腎不全の既往のない」患者を対照群とした。

評価項目として、脳梗塞病型は国際的に汎用されるTOAST分類を用いて、心原性脳塞栓症、アテローム血管性脳梗塞、小血管梗塞(ラクナ梗塞)、その他の脳梗塞、原因不明脳梗塞を評価した。退院時の機能転帰(患者自立度)は、修正ランキン尺度(0[後遺障害なし]~6[死亡]の7段階の評価法)を用いて評価し、同尺度の3~6を転帰不良と定義。さらに、院内死亡を評価した。

多変量解析では、脳梗塞病型に対して、年齢、性別、高血圧、糖尿病、スタチン剤内服の既往、心房細動で調整。転帰不良や院内死亡に対して、年齢、性別、高血圧、糖尿病、スタチン剤内服の既往、病前修正ランキン尺度、入院時神経学的重症度(National Institutes of Health(NIH) Stroke Scale)[42点満点の評価法で、高点数ほど重症])、急性期再灌流療法(静注血栓溶解療法またはカテーテルを用いた血栓回収療法)で調整した。

透析患者では、心原性脳塞栓症割合「高」

脳梗塞患者1万392例のうち、2,419例(23%)はeGFR45~59mL/min/1.73m2の軽度~中等度低下、1,976例(19%)はeGFR<45mL/min/1.73m2の中等度低下の腎不全に分類され、その内、185例(1.8%)は血液透析を受けていた。

脳梗塞病型のうち、eGFR 45-59の軽度~中等度低下,eGFR<45mL/min/1.73m2の中等度低下の腎不全患者やタンパク尿を認める患者は、心原性脳塞栓症の割合が最も多く、多変量解析で調整後も増加の関連を認めた(eGFR 45-59mL/min/1.73m2:オッズ比1.21,95%信頼区間[1.05–1.39]、eGFR<45mL/min/1.73m2:オッズ比1.55[1.34–1.79]、:オッズ比1.52[1.22–1.90])。さらに、eGFRが1mL/min/1.73m2減少する毎に、心原性脳塞栓症の割合が増加する関連性を認めた。

一方で、小血管梗塞の割合は減少の関連を認めた。アテローム血管性脳梗塞、その他の脳梗塞や原因不明脳梗塞では、腎不全の有無で割合に差を認めなかった。透析患者では、心原性脳塞栓症の割合が高いことを認めた(オッズ比1.67[1.14–2.45])。

透析患者、心原性脳塞栓症の転帰不良と関連を認める

脳梗塞後の機能転帰について、eGFR<45mL/min/1.73m2の中等度低下の腎不全患者は、心原性脳塞栓症における転帰不良(オッズ比1.30[1.01–1.69])と院内死亡(オッズ比1.44[1.01–2.07])と、小血管梗塞における転帰不良(オッズ比1.44[1.01–2.07])と院内死亡(オッズ比35.0[2.92–427])とに、それぞれ有意な関連性を認めた。eGFR値(連続数)の検討でも同様の関連を認めた。タンパク尿を認める患者は、同病型の転帰不良と関連を認めた(心原性脳塞栓症;オッズ比3.18[2.0–4.98],小血管梗塞;オッズ比2.08[1.08–3.98])。透析患者では、心原性脳塞栓症の転帰不良(オッズ比2.13[1.06–4.28])と関連を認めた。

今後、脳梗塞ハイリスクである腎不全患者を焦点とした研究を

腎不全は、心原性脳塞栓症に独立した関連があり、その後の転帰不良にも影響した。透析患者にも同じ結果を認めた。さらに小血管梗塞(ラクナ梗塞)の臨床転帰に対しても、腎不全は危険因子であった。

同研究は、詳細な個別臨床情報を用いて、腎不全患者における脳梗塞病型とその臨床転帰を大規模研究で明らかにした。特に、脳梗塞病型毎の臨床転帰に関する報告は世界初だという。脳卒中専門診療に特化した医療機関が参加した国内多施設共同試験の本研究は、実臨床を反映した信憑性が高い結果であると考えられるとしている。

高齢化社会の進行とともに、腎不全の患者数は増加傾向であることから、脳梗塞の発症予防や重症化予測の対策、治療戦略は喫緊の課題だ。今後、脳梗塞ハイリスクである腎不全患者を焦点とした更なる研究が待たれる、と研究グループは述べている。

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