福岡市民病院職員335人対象に
九州大学は3月7日、335名を対象に新型コロナウイルスワクチン2回接種後の抗体価を測定し、副反応の程度や解熱鎮痛剤の内服状況を調査した結果を発表した。この研究は、同大大学院医学研究院病態修復内科学講座の赤司浩一教授、九州大学病院グローバル感染症センターの下野信行センター長、同講座の鄭(チョン)湧助教、同講座の谷直樹大学院生と福岡市民病院の桑野博行院長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Vaccine」に掲載されている。
画像はリリースより
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ワクチンは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症(COVID-19)のパンデミックに対抗する有効な手段の一つとして世界中で接種が進められている。ファイザー社のメッセンジャーRNAワクチンは日本で最初に認可されたSARS-CoV-2に対するワクチンで、高い有効性が報告されているが、インフルエンザワクチンなどのこれまで一般的に接種されてきたワクチンと比較すると、発熱などの副反応の出現頻度が高いことが知られ、それらの症状を軽減するために解熱鎮痛剤を使用する例も多く認められる。しかし、副反応の程度とワクチン接種後の抗体反応の強さの関係性はいまだ議論のあるところだ。また、解熱鎮痛剤の使用が抗体反応にどのような影響を及ぼすのかについても、十分に調査されていない。
今回、研究グループは、福岡市民病院職員486名(研究時点)のうち、428名のSARS-CoV-2のスパイクタンパクに対するIgG抗体(IgG(S-RBD))を測定。そのうちファイザー製mRNAワクチンを2回接種し、かつ2回目接種から十分な期間(14日以上)経過した職員を研究対象とした。そのうち、COVID-19の既往がある、または過去の感染が示唆される職員とワクチン接種前24時間以内に解熱鎮痛剤を内服した職員は研究から除外し、研究対象は合計335人としている。
ワクチン接種後の副反応(発熱、倦怠感、頭痛、注射部位の痛みや腫れなど合計13項目)を調査し、それらの副反応に対して使用した解熱鎮痛剤の薬剤名や服用のタイミング、内服量の情報を収集、副反応の程度や解熱鎮痛剤の内服が抗体価に与える影響を解析した。
2回目接種後に体温38度以上の集団の抗体価平均は37度未満の約1.8倍
調査の結果、2回目接種後の発熱や倦怠感、頭痛、悪寒といった全身反応を生じると抗体価が高い傾向にあった。統計解析により、最終的に2回目接種後の発熱だけが抗体価と独立して相関することがわかった。発熱が強いほど抗体価が高く、2回目接種後に体温が38度以上に上昇した集団の抗体価の平均は37度未満の集団と比較して約1.8倍だった(1万3,035AU/mL vs 7,186 AU/mL, p<0.001)。その傾向は性別、年齢別に層別化しても認められた。
ただし、発熱のなかった集団においても2回接種後には十分な抗体産生が認められており、発熱がないからといって十分な抗体産生が行なわれていないわけではなかった。
解熱鎮痛剤を使用しても十分な抗体産生
解析対象となった職員のうち約45%が、ワクチン接種後に何らかの解熱鎮痛剤を内服。解熱鎮痛剤を内服しなかった集団と比較して、内服した集団の抗体価が低いということはなかった(内服なし8,304 AU/mL vs 内服あり9,458 AU/mL, p=0.083)。
使用された解熱鎮痛剤の種類はアセトアミノフェンが最多(約46%)、次にロキソプロフェンで(約28%)、使用した解熱鎮痛剤の種類による抗体価の有意な差はなかった。解熱鎮痛剤の内服のタイミングごとの検討でも抗体価の有意な差は認めず、副反応出現後であればワクチン接種後から解熱鎮痛剤内服までの時間は、抗体反応に大きな影響を及ぼさないことが示唆された。
続いて発熱の程度ごとに解熱鎮痛剤の影響を検討。発熱の有無にかかわらず、解熱鎮痛剤を使用した集団においても十分な抗体産生が得られていたとしている。
発熱の有無によらず十分な抗体反応、解熱鎮痛剤は抗体反応を阻害せず副反応の苦痛軽減
今回の研究結果により、ワクチン接種後の発熱の有無にかかわらず新型コロナウイルスワクチン2回接種後には十分な抗体反応が得られていた。しかし、2回目接種後に発熱を認めた人はそうでない人よりも抗体価が高い傾向にあり、高い発熱(38度以上)を認めた人は37度未満であった人と比較して平均約1.8倍の抗体価が認められた。
副反応出現後であれば、標準的な解熱鎮痛剤の使用によりワクチン接種後の免疫が十分に獲得されないということはなかった。副反応出現後に解熱鎮痛剤を内服することは、新型コロナウイルスワクチン接種による抗体反応を阻害することなく、発熱といった副反応による苦痛を軽減できると考えられる、と研究グループは述べている。
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・九州大学 研究成果