吹田研究参加の都市部一般住民6,575人対象に、階段利用と心房細動の新規罹患を解析
国立循環器病研究センターは3月4日、都市部地域住民を対象とした吹田研究を用いて、日常生活の中で階段の利用が多いと心房細動罹患リスクが低いことを明らかにしたと発表した。この研究は、同研究センター健診部の小久保喜弘特任部長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Environmental Health and Preventive Medicine」に掲載されている。
画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
身体活動量が多いと循環器病やがんなどの罹患率や死亡率が低いことが、最近の疫学研究で示されており、家事や仕事の自動化、交通手段の発達により身体活動量が低下してきた現代社会において運動を実施して身体活動量を増やすことが推奨されている。しかし、高度経済成長時代以前では、むしろ働きすぎて体を壊してきた。運動においても同様で、健康増進に良いことはわかっていても、激しい運動はかえって健康を害することがある。
アスリートと非アスリートの心房細動罹病率を比較したこれまでの6つの論文をまとめた解析によると、アスリートは非アスリートに比べて、5.29倍心房細動になりやすいことが判明。また、15の論文をまとめた解析では、ガイドライン推奨レベルの身体活動を達成した群では、心房細動罹患リスクが有意に低値だった(ハザード比0.94;95%信頼区間0.90~0.97)。用量反応分析では、週に1,900メッツ(MET・分)までの身体活動レベルは、心房細動のリスクが低く、そのレベルを超えると有意ではなくなった。
健康障害にならないで健康増進が期待される身体活動の程度を測る方法として、身体活動問診で身体活動量を「身体活動の強さ」と「その活動時間」の掛け算で求めることができるが、日常生活の中で、身体活動の内容別に身体活動量の合計を求めることはかなり煩雑なことだ。また、最近はスマートフォンのアプリなどで身体活動量が計測可能だが、一日中肌身離さず所持する必要性がある。
そこで、日常生活の中の簡便な身体活動の指標として、階段の利用率を想定し、階段の利用が多いと心房細動の予防につながるかどうか検討した。吹田研究参加者の30~84歳の都市部一般住民のうち、ベースライン調査時に心房細動の既往歴のない6,575人(男性3,090人、女性3,485人)を対象に、心房細動の新規罹患を追跡。その結果、平均14.7年の追跡期間中に295名が心房細動と新たに診断された。
3階まで上るとき6割以上階段を利用する群で心房細動の罹患リスク「低」
調査では、質問「3階まで上るときに階段をどのくらいの割合で利用しますか」において、2割未満、2~3割、4~5割、6~7割、8割以上の5択での回答とした。
解析の結果、階段の利用率が2割未満の群を基準とした場合、6割以上階段を利用する群で心房細動の罹患リスクは、性年齢調整で0.69倍(ハザード比0.69、95%信頼区間0.49~0.96)、多変量調整で0.71倍(ハザード比0.71、95%信頼区間0.50~0.99)。運動習慣の有無による調整で、0.69倍(95%信頼区間0.49~0.98)だった。
今回の研究では、日頃3階程度の階に上るときに階段を6割以上利用している群で、心房細動の罹患率が低いことを、日本の地域住民を対象とした追跡研究で初めて示したという。日頃から階段をどの程度利用しているかという簡単な指標で心房細動のリスクが予測でき、しかも運動習慣で調整しても有意であったところから、運動習慣とは別に日頃から日常生活で階段を利用するように心がけていると、心房細動になりにくいということがわかったとしている。
研究グループは、日頃から階段を利用するように心がけている人は、階段以外のところでも体を動かそうとしている可能性もあるとし、日頃から日常生活で体を動かすように心がけていると、心房細動になりにくい可能性も考えられる、と述べている。
今後、食事や睡眠など生活習慣要因を加えてさらなる研究を
吹田研究ではこれまで、心房細動罹患の予測ツールを開発してきた。この予測ツールは健診程度の古典的リスク因子を用いて開発されているが、今回の結果を受け、今後は生活習慣要因も加えていくことで、心房細動発症予防の為に、どのような生活習慣改善、例えば食事要因、運動要因、睡眠要因などが必要であるか提示することができるようになる可能性がある。
一方で、今回の研究の限界性として、自己記入式の問診票であるため、誤分類の可能性は否定でないことをあげている。しかし、健診時に看護師が記入を確認しているので、誤分類は最小限に抑えられていることと思われる。なお、腰痛や膝関節症などの整形外科的な疾患を有する者は、階段を避ける傾向があると考えられるが、今回これらの疾患の影響を検討していない。そのような者には、椅子を使った体操など別の方法を紹介していく必要性があると考えられる。
また、階段の利用率はベースライン時のみの解析であり、追跡期間中の階段の利用率も併せて今後さらに研究を広げていきたいとしている。今回の解析では、生活習慣の中でも食事要因や睡眠などに関する要因を検討していないので、今後さらなる研究が必要だとしている。
▼関連リンク
・国立循環器病研究センター プレスリリース